2011/7/31  〈影媛〉無事演了しました。 | 好雪録

2011/7/31  〈影媛〉無事演了しました。

新作能〈影媛〉、昨日無事に演了いたしました。
不順の折から、驟雨の襲う悪天の中、ご来観頂きました方々に篤く御礼申し上げます。

公演直前になって組み込まれた馬場あき子さんの「おはなし」が、古代の女の巫祝としての霊力と社会的抑圧とを抉り出す、力の籠った好講話でした。
単なるあらすじ解説とは違って、深い鑑賞の一助になったのではないでしょうか。
岡野弘彦氏、佐々木幸綱氏、現代歌壇最高峰お2人の心入れ豊かな文章が収録された当公演専用プログラムも、なかなか良くできておりました。
このプログラム。
通常の国立能楽堂主催公演ですと、売れて1公演に200部ほどのところ、今回は馬場さんが講話の中で吹聴されたせいか、両日とも1日に400部以上も捌け、多くの方が手にされていました。
プログラム制作担当の宣伝編集係の方も、張り合いがあったと喜んでおられました。

さて、公演について。
初日より2日目、役者の身体に作品が沁みたということなのでしょう。
前段の狂言が5分、後段の能が10分、それぞれ延び、昨日は全体で1時間50分でした。

初日は能の最後で影媛が舞衣を脱ぎ、モギドウに勾玉頸飾を掛けて幕に入りました。
2日目は舞衣に勾玉のまま最後まで通しました。
したがって、舞衣を脱ぐため必要な囃子2クサリの物着アシライを昨日は抜いたのですが、それでも長く掛かった訳です、
それ以外は初日と2日目と同寸法。演出もほぼ同じでした。

昨日の2日目公演。初日に比べて15分の延引に、間延びの感はありませんでした。
これはひとえに解釈の濃厚さによるもので、
同じ作品でも役者のアプローチでこれほど変わるということを、改めて認識しました。
どちらにも理があり、効果があったようです。
2日間ご覧の方も散見されましたので、比較して頂ければ幸いです。

面について。
影媛は、初日は逆髪の写シ。2日目は萬媚。どちらも梅若家藏。
鮪は、初日は前半に錦木男。後半に今若。2日目は今若を通して用いました。
影媛のほうは甲乙つけがたくそれぞれに活き、双方さすが名品、舞台効果は秀逸でした。
鮪の使用面には、なお後考の余地がありそうです。

以前手掛けました〈夜叉ヶ池〉脚色など、単なる脚本提供であれば、出演者や制作担当とは一線を画した別の立場ですから、上演についてある程度の論評も可能ですが、今回は補綴を基とするかなりの程度の制作作業に関わりましたので、公演成果を客観的に批評する立場にはありません。
こうした新作、しかも国費を使っての藝術創造には、爾後の総括が不可欠だと思います。
これまでの新作能は、「すること」に意義を求める半面、その結果についての充分な分析がなされてきたとは言いがたいように思います。
私も今後なんらかのかたちで、一般には知られにくい能本補綴の経緯等、記録として詳しく書き留めておきたいと考えています。

なお、この新作能〈影媛〉は、来年、平成24年1月21日(土)午後1時から、
新潟りゅーとぴあ能楽堂公演として、同所での再演が予定されております。
配役はすべて今回と同一。作者・馬場あき子さんの「おはなし」も同じく冒頭に付きます。
状況によっては、細部に手を入れて、ヴァージョンアップした再演となるかもしれません。
またこちらも、是非よろしくお願い致します。

2011年7月31日 | 記事URL

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