2012/1/10 老女物 | 好雪録

2012/1/10 老女物

今週木曜日に連載第2回の日経夕刊掲載記事を本日入稿。
限定された字数ながら、能〈關寺小町〉と歌舞伎舞踊〈積戀雪關扉〉のおはなしである。

〈關寺小町〉を頂点に頂く、老女物の能5番。
秘曲と呼ばれるそれぞれが、近年は実に頻演されるようになった。
見る機会が増えるのは誠に喜ばしいが、一番一番が軽々になされていないか。
われ人ともに自戒を怠らぬようありたい。

宝生流などは16世九郎知榮このかた、裃の袴は短いものと定めてしまい、流儀の誰もが疑わないけれども、老女物、ことに三老女であれば、囃子方・地謡・後見、みな長裃が本来である。
外形ばかり威儀を正しても心が伴わなければしょうがないとはといえ、上演に臨むこうした気構えは色々な意味で大切なことだと、私は考える。

それにしても、現存の能役者で〈關寺〉を勤めた経験者は、誰だろう?
喜多流、金剛流にはいない。
宝生流では今井泰男。他に、番囃子では近藤乾之助の名演があった。
金春流では、昨年末に惜しくも病欠した高橋汎に代わった金春安明。
ほかはすべて観世流である。
片山幽雪、観世喜之、關根祥六、野村四郎、梅若万三郎、大槻文藏、観世清和。
このすべてを見聞することができたが、なるほど、それぞれについて記憶は新しい。

今後、誰が新たなリストに入るものか。
自分でも舞って良しと納得し、他人も舞って良しと認めるのでなければ、無理から〈關寺〉を勤めても無意味である。
それだけ、この能には威が具わっているのだ。

老女物の上演。昨年は〈姨捨〉が続いた。
今年は既に公表された高林白牛口二と大槻文藏の〈姨捨〉ほか、他の老女物数件の情報があるばかりながら、来年は大規模な演能予定を既に幾つか耳にしている。

先週は小田原、本日は東京湾で鯨の死骸が揚がり、一部でとかくの話題になっている由。
まず、昨春のような不慮の天災のないことを祈るばかりである。

2012年1月10日 | 記事URL

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