2012/1/21 古町藝妓 | 好雪録

2012/1/21 古町藝妓

表題のお話は後半のお楽しみ、である。

本日、新潟りゅうとぴあ能楽堂にて、昨年7月に国立能楽堂で初演された新作能〈影媛〉の再演がなされた。
全体の流れと雰囲気は初演2日目に準じたもので、前半(狂言部分)50分弱、後半(能部分)55分、という進行。
失錯や事故もなく無事演了したが、稽古を重ねた初演時から日を置くと、さすがに慎重になる傾向はあって、かなり濃厚な雰囲気の〈影媛〉だった。
幸い満席の盛況、馬場あき子さんの30分解説も濃密な内容で、観客席の雰囲気は終始熱心だったのは何よりだったと思う。

昨晩は古町の老舗・鍋茶屋で馬場さんの招宴。

箱が入る料亭とて、席では藝者衆が取り持ちをしてくれた。
中に、清元で鍛えた良いノドの老妓がいて、歌ったのは軽い俗謡だったが、「ああ、〈保名〉でも聴いてみたい」と思わせられた、引き締まった結構な語り口だった。

さすがは名代の鍋茶屋、木口の揃った建物は良く手入れされ掃除も行き届き、実に美事。
和室だけでなく、昭和初年に建てられた応接室は細部に至るまで凝った造り、ちょっとない見ものである。
肝腎の料理も、こうした場所にありがちの見伊達ばかり立派なものではなくて、素材も味もまことに結構、再訪して味わう価値がある。
床の掛物は松村景文の高砂尉姥の図。
膳は芭蕉の高蒔絵で、煮物椀は源氏香夕顔の図に扇の蒔絵。
もてなしのそこここに能の趣向がそれとなく忍ばせてある心入れ。
昔とは違い、今やそんなに敷居の高い店ではない。
文化財保護の意義からも、是非ご訪問をオススメする。

北前船で栄えた当地の藝妓には現在、昔ながらの本格の姐さんと、いわばコンパニオンである柳都振興株式会社の社員「柳都さん」と、2種類ある。その合計が〆て25人だそうで、古株の姐さん曰く、「これが20人を切ると色々な維持が難しい」由。
地方出身者も受け入れる京都の祇園町とは違い、この古町の藝妓は新潟、できれば市内近隣の出身者に限るとのこと。そうでないと、古町藝妓らしい何気ないコトバの雰囲気や味が出ないのだという。
技術で何とかなる能役者や歌舞伎役者とは違い、なるほどこの世界は難しい。

料亭も藝妓も、それを支える消費生活が失われれば即、絶滅の運命にある。
一度失われたら最後、復興はあり得ない。
新橋や祇園すら四苦八苦の現在、新潟というさまざまな意味で微妙な地にある古町藝妓の将来は決して明るいものではないと思うが、金澤と並び裏日本屈指の伝統を誇る当地の藝妓文化、やはり尊いものだと思うことしきりである。

2012年1月21日 | 記事URL

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