2012/1/26 La Cage Aux Folles掌説~「殉教者」アルバン | 好雪録

2012/1/26 La Cage Aux Folles掌説~「殉教者」アルバン

私が今月思わず「ハマッタ」演目について、である。

ミュージカル〈ラ・カージュ・オ・フォール〉の舞台は南仏「サントロペ」である。
スノッブな港町+高級リゾートとして知られているものの、日本人にとっては著名ではない土地。

サントロペの由来は、ローマ皇帝ネロの近臣・トルペティウス(Torpetius)。
彼は聖パウロの弟子として入信。ネロの偶像崇拝に反対して虐殺され、屍骸は舟に載せて流された。これが流れ着いたのが当地であって、殉教者トルペティウス=後に列聖されて聖人・聖トロペ(St. Tropes)、に因む地名がサントロペ(Saint-Tropez)だ、という。

高級リゾートといえばニースでもカンヌでも良さそうだが、なぜサントロペか?
私が思うに、これは偏に「殉教」のイメージから、だと思う。

このミュージカルの主役・アルバン=ザザは、パートナーであるジョルジュが認めるように、20年間すべてを犠牲にして「夫」や「子」のために尽くしてきた。が、結婚を夢見る「わが子」ジャン・ミッシェルはそのことには気付かない。1幕目最後の「アリア」 I Am What I Am は、傷ついたアルバンの魂の叫び。
ここで、他者に捧げた愛に報いられず引き裂かれた彼のありようは、まさに殉教者さながらではないか。

そう言えば、ジャン・ミッシェルが率先して行う「模様替え」の結果、アルバン+ジョルジュの家のサロンはあたかも修道院のようなお堅い飾り付けに変わってしまう。その正面に磔刑のキリスト像がデカデカと掲げてある。
これもやはり、アルバンに「殉教者」のイメージを与えるためであるように、私は思う。

ちなみに、聖トロペが拒んだ「偶像」。
それは狩の女神・ディアーナだった。
ディアーナは月の女神・ルーナと同体であり、どちらもギリシア神話のアルテミスに等しい。
これら、殊にアルテミスは多産・出産の守護神で、供犠としては牡牛の睾丸が捧げられた。

聖トロペは、「男ならば誰しも崇める理想の女性=種を継ぎ子孫を繁栄させる女神」に跪くことを拒み、殺された。

女装生活に輝かしい誇りを抱く、「子をなさない」ゲイの男・アルバンにふさわしい隠喩ではなかろうか。

2012年1月26日 | 記事URL

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