好雪録

2012年2月アーカイブ

2012/2/29 あるときは春雪狂ふが如く降る

雀右衛門の本葬は本日、雪の降りしきる青山で執り行われた。

濃厚妖艶な華の中に、厳しく余人の立ち入りを咎める図太い強さと、狂気や破綻に傾いてさえも駆け往かずにはいられない疾走感がハッキリ出ていた京屋の藝。
冴え返り、あるときは激しく降りつのる春の雪は、そうした故人の魂を送るに何より無上の荘厳だった。

2012年2月29日 | 記事URL

2012/2/28 夜の酒場

ちょっと時間があったので、馴染みの酒場へ。

狭い店だからどうかと思ったが、案の定、雪催いの寒い夜だというのに満員の様子。
店主の弾くピアノに合わせ、聴き知った常連の売れない歌手が半分自棄になってピアフの「ミロール」をがなり立てているのを、みんなして囃し立てる大騒ぎが道まで聴こえる。

「あー、これじゃ暫くダメだ」と、別の店に回った。

こうした取るに足らない一瞬に何とも言えない価値を、私は見い出す。
人は何のために生きるのか、ということをふと思うのも、こうした時だ。

2012年2月28日 | 記事URL

2012/2/27 「鄭明勲」って誰? 

先日の報道に「鄭明勲氏、北朝鮮楽団を指揮」というのがあった。
指揮者の名前は大抵聞き知っているが、「鄭明勲」って誰?......と思ったら、パリのオペラ・バステイーユで辣腕を揮った気鋭のマエストロ「チョン・ミョンフン」のことであった。
西欧人が大半を占める在外音楽家に準じてか、わが国では「정명훈」をそのまま音写した「チョン・ミョンフン」として紹介され、漢字表記「鄭明勲」は滅多にお目に掛からない。

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2012年2月27日 | 記事URL

2012/2/26 能公演の経済性

観世能楽堂での「武田宗典道成寺の会」は、営業努力の甲斐が見える大入りの盛況。
内容もすこぶる充実して、初めて能を見た人にも感動があったはずである。

休憩時間、聴くともなしに近くの会話が耳に入った。
たぶん、普段は能を見ない人たちなのだと思う。
「能はどのような公演形態を取っているのか」という議論と疑問だった。

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2012年2月26日 | 記事URL

2012/2/25 役者の「旬」はいつ?

雀右衞門が91歳で亡くなった一昨日、今年82歳の關根祥六の〈羽衣 彩色之傳〉を見た。
本日は今年45歳の同年である狩野了一の〈葛城 神楽〉と友枝雄人の〈藤戸〉を見た。

役者の「旬」とは、一体いつを指すのだろうか?

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2012年2月25日 | 記事URL

2012/2/24 「当たり役」とは?

雀右衞門の逝去に伴い例によって新聞諸紙に追悼記事が出たが、中に、一昨年の最後の舞台について「存在感に客席から喝采」という意味合いのものがあった。
まあ、老女形に「存在感」、不調を押した名優の出勤に「喝采」、誰が書いても出てくる常套句だから一面仕方がないとはいえ、これではあまりに「事実」に反する。
昨日の拙稿をご参照頂きたい。

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2012年2月24日 | 記事URL

2012/2/23 梅早し面影偲ぶをんながた

ついに京屋・四代目中村雀右衞門が亡くなった。

この人ほど舞台の成果を挙げて幸福な晩年を送った女形は、近年ほかにない。
その意味では、私は「名優」になった後しか知らない十三代目片岡仁左衞門と並ぶ歌舞伎役者だろう。

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2012年2月23日 | 記事URL

2012/2/22 尾形仂『鴎外の歴史小説~史料と方法』

尾形仂先生(1920~2009年)には、ご生前謦咳に接する折をついに得なかったが、没後の今に至るまで、私の心から尊敬する学究者である。
表題は岩波現代文庫に2002年に収められたもので、もとは1979年筑摩書房刊の旧版の改訂。所収論考は1960年代以来の成果の集積である。岩波新版発刊に際しては著者の新あとがきも付されて、素姓の正しい一書ということができる。

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2012年2月22日 | 記事URL

2012/2/21 和装のプロトコール

人に頼まれて、付き合いのある呉服屋で婦人物の和服の柄行きを見立てることがあった。

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2012年2月21日 | 記事URL

2012/2/20 閉店

酒呑みの端くれなので、行きつけのお店というのがそこここにある。
今週、その中で最も大切に思っていた一軒が閉業する。
主人が重い病なのである。

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2012年2月20日 | 記事URL

2012/2/19 池袋コミュニティカレッジ講座

年頭にチラリと申し上げていたのが表題の講座。
既に告知が出たので、本日、活動予定の欄に追記しました。

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2012年2月19日 | 記事URL

2012/2/18 のりこぼし

大阪から奈良へ廻ると、霰が降り出した。
車窓から見る見るうちに、飛火野も春日参道も一面の白になった。
霰はすぐには消えないから、雪よりも地面の色が変わるのも早いのだ。

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2012年2月18日 | 記事URL

2012/2/17 メジロ

庭先にミカンの輪切りを吊るしておくと、メジロが飛んで来てきれいに啄み尽くす。
可愛らしいと言ったらない。
例年、梅の花の蜜を吸いに来るのだけれど、今年は花が遅いせいか余計にミカンをあてにしているようだ。

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2012年2月17日 | 記事URL

2012/2/16 大槻文藏

国立能楽堂で観世流新規編入曲〈松浦佐用姫〉の上演。
観世宗家藏の逸品・龍右衛門の本歌「小夜姫」を掛けて舞った大槻文藏がまことに充実。
「旬」ということで言えば五指に入る、現代を代表するシテ方と称するに足る成果だ。

詳細は、来月末発行の『能楽タイムズ』4月号能評欄にて!

2012年2月16日 | 記事URL

2012/2/15 涅槃會

昨日に続く話題のようだが、2月15日は釈迦が亡くなられた涅槃會(ねはんえ)である。
もっとも、新暦に換算すれば今年は3月7日(水)が旧暦の2月15日に当たる。
能〈當麻〉前場の設定「如月中の五日」とはその日を指すのだ。

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2012年2月15日 | 記事URL

2012/2/14 ヴァレンタイン・デー

新宿・伊勢丹の地下食料品売場は大変な雑踏。
その中心は菓子の売場。

本日は「ヴァレンタインの日」である。

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2012年2月14日 | 記事URL

2012/2/13 胡蝶の香合

名古屋日帰り、御園座を昼夜通しで見てきた。
菊之助の辯天小僧がまさに盛りの花の美事さ。
嫌なことを一切せずに行儀良く、それでいて充分にやり尽くしたもので、この役に求め得る最上の成果だ。

表題は、この芝居の軸になる宝物である。

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2012年2月13日 | 記事URL

2012/2/12 エディット・ピアフ

先日、ちょっと必要があって、ピアフの持ち歌で何が良いか、数え挙げた。

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2012年2月12日 | 記事URL

2012/2/11 Weisswein Gespritzt

〈ラ・カージュ・オ・フォール〉はサントラ盤を聴き込んで、今やどの楽曲も隅から隅まで覚え抜いている。
今日も頭の中でその内そこここを繰り返しながら電車に乗ったら、まるで呼び寄せたかのように、大市村の顔半分大写しの吊広告が。
新発売「KIRINのワインスプリッツァ・白」の広告だった。

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2012年2月11日 | 記事URL

2012/2/10 走る

京都の人と話していると、往々にして「走る」という言い方をされる。

「松嶋屋さん、見たかって、松竹座まで走りましてん」
「なかなか、あてら東京までは、よう走られしまへん」

「走る=損得勘定を振り捨てて駆け付ける」という意味である。

その意味で、私も名古屋最終公演の〈ラ・カージュ・オ・フォール〉に「走り」たい気持ち満々だが、奈何せん、きわめて悪い席しか残っていない由。

よって断念したものの、まだ未練が残る公演である。

2012年2月10日 | 記事URL

2012/2/9 長命寺櫻餅

新橋演舞場の帰りに銀座三越の地下に立ち寄ったら、残念なことに、本日入荷日の向島・長命寺山本の櫻餅は売り切れだった。
私はこれを、東京随一の銘菓と推奨して憚らない。

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2012年2月 9日 | 記事URL

2012/2/8 梅遅き春

植物が好きなので、家や職場の周辺、どこにどの花がいつごろ咲くか、大抵把握している。

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2012年2月 8日 | 記事URL

2012/2/7 ライモンダ

今宵はボリショイ・バレエ〈ライモンダ〉を堪能。
タイトルロールを踊ったマリーナ・アレクサンドロワが十全の風格と技巧で、満場の喝采を浴びたが、コールドバレエ(群舞)の末端に至るまで人材が豊富。

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2012年2月 7日 | 記事URL

2012/2/6 必見

ただいま新橋演舞場にて開催中の6代目中村勘九郎襲名興行。
夜の部の序幕〈鈴ヶ森〉が、およそ期待以上の、「これぞ歌舞伎」という名舞台。
この10ヶ年に私が目にした歌舞伎芝居の中でも、最上級の成果である。

といふわけで、まづ本日はこれぎり(笑)

2012年2月 6日 | 記事URL

2012/2/5 ヴィーンに行きたい!! 

昨秋、帝劇で初演されて極度の不入りに終わった(ものの、私は気に入り私的に2度見た)〈ニューヨークに行きたい!!〉というミュージカルがあった。
妙に気合いの籠った本日の表題は、そのパクリである。

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2012年2月 5日 | 記事URL

2012/2/4 立春大吉

寒い寒いと言っても、立春である。
今日からは「余寒」というわけで、含蓄のある良い言葉だとしみじみ思う。

年によっては年賀状の準備が出来ず、新年になってから出さざるを得ないことがあり、そうした場合はえてして「寒中御見舞」となってしまうもの。
いっそのことウンとじっくり構え、立春の今日、祝儀の挨拶として到着するように計らう手もあって、これはかえって床しいものである。

と思っていたら、そのとおり今日、山勢松韻さんから紅枠のめでたいお葉書を頂いた。

  氣霽風梳新柳髮 氷消波洗舊苔鬚

〈實盛〉にも謡われる都良香の名吟を引かれた文面に、春の息吹を深く思ったことだった。

今日は先日に引き続いて京都日帰りで、立春の味覚も楽しめた。
2月分の能評は『能楽タイムズ』の依頼を受けているので、そちらにまとめて執筆します。
1月分の能評は纏め掛けていますので、近日、批評の項にまとめて上網致します。

2012年2月 4日 | 記事URL

2012/2/3 節分の豆

久しぶりに外出して遅くに帰宅したら、家族が豆を撒いたかして、
部屋のここかしこに散らばっているのを拾い、窓の外に放り投げるなりした。
山鳩なんどが啄み、喜ぶことだろう。
寒さは厳しくとも、日中の陽の光は春に近い。

明日は早立ちの京都日帰りゆえ、今宵はこんなところで。

2012年2月 3日 | 記事URL

2012/2/2 吉右衛門と勘三郎

籠居の甲斐あって、ようやく復調傾向であります。

本日、新橋演舞場で六代目中村勘九郎襲名披露興行が初日を迎えた。
1986年1月2日歌舞伎座の〈大盛綱〉初日、祖父・先代勘三郎が二重の上から見下ろす中、舞台上手から鎧姿に兜を持ってチョコチョコ駆け出て、「ただいまご加勢仕る!」「行けェ」「はッ!」と、よろしくやりとりあって花道に去って行った初お目見得の彼の、豆のような小三郎が、ありありと目に残る。
このとき、歌右衛門の篝火に抱かれ健気に死んだ小四郎が、今の海老蔵なのだ。

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2012年2月 2日 | 記事URL

2012/2/1 雪の黒川は断念

どうも風邪具合が芳しくない。

昨日、医師の診断を乞い、幸いインフルエンザではなかったが、
寒天のせいもあってか折々悪寒が襲い、そう酷くなくとも咳がなかなか収まらない。
毎年恒例のとおり今日から黒川王祇祭に参会の予定で、今年は雪も深いこととて楽しみにしていたのだが、この体調では明日、火の気のない春日神社拝殿に上がって、冷酒を飲みながら式三番や脇能を楽しむわけにはゆかないので、やむなく断念。

なお、1月30日付の「ミュージカル〈ラ・カージュ・オ・フォール〉の演劇性」については、内容として批評の項にあるのが妥当と考えたので、文章はそのまま、移動した。
以上、申し添える次第である。

2012年2月 1日 | 記事URL

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