2012/2/22 尾形仂『鴎外の歴史小説~史料と方法』 | 好雪録

2012/2/22 尾形仂『鴎外の歴史小説~史料と方法』

尾形仂先生(1920~2009年)には、ご生前謦咳に接する折をついに得なかったが、没後の今に至るまで、私の心から尊敬する学究者である。
表題は岩波現代文庫に2002年に収められたもので、もとは1979年筑摩書房刊の旧版の改訂。所収論考は1960年代以来の成果の集積である。岩波新版発刊に際しては著者の新あとがきも付されて、素姓の正しい一書ということができる。

尾形先生は夙に俳諧文藝研究の大家として知られる。最晩年に成った『おくのほそ道評釈 』(角川書店)は現代芭蕉研究最良の成果というもので、私の座右の書である。

その中で鷗外研究は、尾形先生の本流ではない。
とはいえ、この書に展開される鴎外歴史小説の成立と意義に関する論考は、まさに美事の一語に尽きるものである。
鷗外がそうしたように、いや、それ以上に史料を徹底的に読み解き、比較分析し、臆断なしに事実を斬り裂いてゆく手技には、むしろ美しいものすら感じ取れる。
しかして、尾形先生の文章には、掬すべき味わいがあるのだ。

ここで部分を引いてもあまり意味はないので省くとしても、文学の鑑賞には鑑賞能力というものが必要で、それを欠いたまま所謂「研究」を持続しても、結果としてそれは「文学研究」とはちょっと違ったものに外れやすい。
尾形先生の研究は綿密を極めながら、その文学的観照が論文の文体に反映され、一語一句に説得力が籠っている点に大きな意義がある。

本日、久しぶりに再読し、改めて大きな感動を得た。
鴎外文学、また史実と虚構の関係性について興味を抱く人にとっては必読の書である。

2012年2月22日 | 記事URL

このページの先頭へ

©Murakami Tatau All Rights Reserved.