2012/2/5 ヴィーンに行きたい!!  | 好雪録

2012/2/5 ヴィーンに行きたい!! 

昨秋、帝劇で初演されて極度の不入りに終わった(ものの、私は気に入り私的に2度見た)〈ニューヨークに行きたい!!〉というミュージカルがあった。
妙に気合いの籠った本日の表題は、そのパクリである。

毎年2月に入ると大学の勤務が一段落付く。
そうすると決まったように気が抜けて風邪を引くのは先日のとおりである。

過去、この時期に毎年決まってヨーロッパにオペラを聴きに出るようにしていたのは、あらゆる係累を断ち切って一人になる時間を作ることに加え、わが国の古典藝能のありようを考えるに有益なためで、そうなると短期滞在でも毎晩違った演目に出会えるドイツ語圏へ、という選択になる

ヴィーンやドイツ国内大都市のオペラハウスは、日替わり上演を原則とするところが多い。特にヴィーン国立歌劇場(シュターツオパー)は40年ばかり前まで「1ヶ月毎晩通っても、同じ出し物は見せない」ことを誇りにしていたらしいが、さすがにコストパフォーマンスが悪過ぎて、今ではそんな豪勢なことはない。
とは言うものの、1週間も滞在すればシュターツオパーで最低4本程度の異なる演目には出会えるし、他にフォルクスオパー、ヴィーン劇場(テアター・アン・デア・ヴィーン)があり、さらに楽友協会やコンツェルトハウスに行けば管弦楽・室内楽等の演奏会はほぼ毎日。
ともかく選り好みせず、寒ささえ厭わなければ、この時期のヴィーンは楽興の時を得るのに全く困らない。

大規模な劇場空間が好きなので、私はヴィーンに行けばシュターツオパーに幾晩も通う。

戦災で焼け残った壮麗なホワイエのここかしこ、何ヶ所も出ているカフェ・ブースには、大抵いつも同じ店番が立っていて、私は「ここ」と決めたブースにしか立ち寄らないから、おばちゃんもシッカリ憶えている。「アラ、今年も来たのね♪」と笑って、何も言わなくても1盃5ユーロ強のセクト(シャンパンより廉いスパークリングワイン)を出してくれる約束だ。
(ベートーヴェンの彫像の下に立っているフーバーさん、お元気だろうか......)

一昨年は演目の関係で訪問できず。
昨春は、本項でも述べたとおり、万端調えたものの地震で断念。
今年は2~3月に食指の動く出し物がなく、このままだとずるずるベッタリ、また行かずに終わるはずのところ、今日、何の気なしに調べたら、シュターツオパーではないヴィーン劇場で、4~5月に掛けてトマの〈アムレ〉が出るという。

Charles Louis Ambroise Thomas(1811~1896年)作曲のオペラ'Hamlet'(1868年初演)。
先日、新国立劇場の演目へ憤懣を漏らした時に挙げた曲目だが、私の最も好きなものの一つなのだ。
ちなみに、これはフランス・オペラだから、原作〈ハムレット〉がフランス語読みの〈アムレ〉になってしまうのである。

〈アムレ〉は昔は頻繁に上演されたが、20世紀後半以降いわゆる「稀曲」に入った演目で、一般的な知名度は低い。
全曲中例外的に有名なのは第4幕、オフェリ(オフェーリア)狂乱の場。原詩をかなり活かし仏語訳した、音楽として誠に内容に富んだ華麗な大アリアである。戦前の名歌手アメリタ・ガリ=クルチの録音(イタリア語)、また全曲は演じずアリア単独で得意にしたマリア・カラスの録音で、これを聴かれた方もあるだろう。

過去に日本では東京オペラ・プロデュースが1997年6月に高田馬場の(当時)パナソニック・グローブ座でフランス語上演した快挙があって、私はこれを楽しみに聴きに行った。
その後、フランス語を母国語とするナタリー・デセイがこれを得意としパリでも復興上演され、近年は漸く真価が認められた。
とは言うものの、表題役のアムレ(ハムレット)のバリトン歌手はまだしも、超高音を駆使した技巧をこなせなければ勤まらない「オフェリ歌い」を探すのは困難だから、依然として難曲・稀曲であることに違いはない。

今春のTheater an der Wienの'Hamlet'は新制作である。
アムレのStéphane Degout もオフェリのChristine Schäferも、私は実際に聴いたことはないが最近評判の高い歌手であり、施設の古びた小屋ながら(ベートーヴェンが1808年にここで〈運命〉を指揮し初演して以来、客席やロビーは変わっていない!)企画力の優秀さと公演の質の高さでは群を抜く劇場だから、期待は大きい。

連休期間は航空券が高い半面、今時分と違って気候も良くシュパーゲル(白アスパラガス)の美味な時でもあり、ちょっと一考を試みようかと思う次第である。

2012年2月 5日 | 記事URL

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