2012/2/9 長命寺櫻餅 | 好雪録

2012/2/9 長命寺櫻餅

新橋演舞場の帰りに銀座三越の地下に立ち寄ったら、残念なことに、本日入荷日の向島・長命寺山本の櫻餅は売り切れだった。
私はこれを、東京随一の銘菓と推奨して憚らない。

まだお試しでない方は、是非一度お召し上がりを願いたい。
関西風の道明寺糒とは違うクレープ状の薄皮。その加減は絶妙であり、餡も申し分ない。ひとつ宛3枚を奢った櫻の葉の香が極めて高く、その精気が菓子全体に得も言わぬ風味を添えて、ちょっと他に比べられない櫻餅である。

手に入れようと思えば、都内の一部百貨店の特定日を除き、本店に直接赴く以外ない。
決して日持ちのしないもので、一夜明けて食べても乾いていて、もうダメである。
作りたてを店先で食べるに限るが、昔の墨堤は知らず、今はお世辞にも風情ある場所ではないから、やはりどうしても、時間と場所を鑑み、足を使い買ってくる必要があるのだ。
こうした手間を掛けなくてはならない江戸以来の銘菓が、新規開業のスカイツリーの足元に盛業しているとは面白い。

4月の平成中村座の演目が発表された。
その折、小屋裏の桜橋を渡れば店まですぐ。陽気を見計らって訪ねるのは一興とはいえ、花時の時節柄、店頭は雑踏を極める。

だが、その時期の櫻餅は、一年前に塩漬けした古葉を使っていることを考えると、「櫻餅は櫻の花時の菓子」と考えるのはちょっと違っていると、私は思う。

では、いつが賞味のしどきなのか?

女性の和服でも季節に先んじて柄を選ぶように、櫻の花を待ち望むころ、つまり、立春から新暦の雛祭過ぎまで、梢の莟もまだ堅い早春のうちに口にするのが、やはり最もつきづきしいように私には思われる。

2012年2月 9日 | 記事URL

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