好雪録

2012年3月アーカイブ

2012/3/31 藝魂といふことばあり春嵐

本日は六世中村歌右衞門の御命日。
亡くなって11年目となるが、それまで5年間臥せっておられたので、最後にお目に掛かってから16年と相なる。

まことに、「十六年は一昔」。

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2012年3月31日 | 記事URL

2012/3/30 経済効率と藝術・教育

年度末とて、身辺のさまざまな分野で予算やら決算の話題が出る。

消費増税法案の閣議決定に反対し閣僚・政務官の辞任者続出との報道に先刻接したが、昨年来「未曾有の国難」と言い続けていながら、またもや身内の派閥闘争をしている場合ではなかろうとホトホト呆れる始末である。
こうした事態が山積して世上に政治不信を煽り、「誰でもいいから強い指導者を」というような衆愚状態を来たしかねないところが、実は最もオソロシイのである。

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2012年3月30日 | 記事URL

2012/3/29 不盡山

京都への往復は麗らかに良く晴れて、車窓から美事な富士の山容が拝まれた。

昔から富士山、不二山、不盡山(不尽山)、色々に書き表わすそれぞれに意味がある。
『萬葉集』で高橋蟲麻呂が「燃ゆる火を雪もち消ち降る雪を火もち消ちつつ」と詠むさまは、往古、活発に噴火していたころの峻厳さを偲ばせるに充分である。

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2012年3月29日 | 記事URL

2012/3/28 利休忌

旧暦2月28日は利休宗易居士賜死自刃の命日。

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2012年3月28日 | 記事URL

2012/3/27 朝日カルチャーセンター対談「観世流の芸とこころ」

26世宗家・観世清和さんをお迎えした表題の新宿校公開講座も無事終了。
一杯のお客さまにお出で頂き、ありがたい限りでありました。

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2012年3月27日 | 記事URL

2012/3/26 蛇の目廻し

新築中の歌舞伎座の舞台に大規模なセリが仕込まれた由。
これを見ると、初台の新国立劇場オペラパレスに匹敵する大機構のようである。

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2012年3月26日 | 記事URL

2012/3/25 携帯電話は迷惑です。

雑駁な表題で恐れ入る。
これはむろん、観劇最中の着信音について。

先刻、宝生別会〈道成寺〉の亂拍子の静寂に、ピピピピッ、ピピピピッ、と10連続。
そのあと、再三繰り返されて、一番が終わった。

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2012年3月25日 | 記事URL

2012/3/24 若い囃子家たち

勤務校の卒業式に臨席した後、喜多流青年能の後半を見た。

囃子方の全員が若手。
10年前だったら「?誰?」というメンバーだが、全体それなりに纏まっているし、個々に聴いても4人それぞれ取りどころがある。
夜、旧知の中堅能役者と懇談したが、これを話すと、玄人としても同意見だった。

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2012年3月24日 | 記事URL

2012/3/23 勘違い

1月分の能・狂言批評を、まだ書き掛けですが、とりあえず上網しました。
(未完)の添え書きが消えるまで半ば未定稿ですので、追加記述に添えて表現が変化する余地がありますが、論旨を変更するような改訂は加えません。応分に高覧を願います。

本年からは接した能・狂言演目にはすべて、一言なりともコメントを残したいと思います。

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2012年3月23日 | 記事URL

2012/3/22 後見の力量

2月分の能評は入稿済み。次号『能楽タイムズ』をご覧頂きたい。
ひときわ美事だったのは、銕仙会例会〈弱法師〉における野村四郎氏の後見ぶり。
「これだ!」と膝を打つ思い、とはこのことである。

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2012年3月22日 | 記事URL

2012/3/21 市の名前、売り升。

大阪府の泉佐野市が財政破綻寸前で、財源確保のため市名の命名権売却を決定という報道
それはまあ、たいへんお気の毒ではあるけれど、やはり物事には限度というものがあるのではなかろうか。
貧すれば鈍するを地で行く事態に、ちょっと呆れてモノが言われない、という感じである。

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2012年3月21日 | 記事URL

2012/3/20 貝母百合

晴れて15度より気温の上がる日が続かないと爛漫たる春を実感することはできないが、今年はまだ。
しかし、陽射しはすっかり春だし、3月に入ってはコートも着ずに外出するのが常になった。

庭で貝母が背丈を伸ばし、莟をつけている。

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2012年3月20日 | 記事URL

2012/3/19 平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式

表題式典および祝賀会が文部科学省で挙行された。私も演劇部門推薦委員として参列。

今年度の受賞者は、演劇部門では文部科学大臣賞に演出家・栗山民也氏と歌舞伎俳優・中村又五郎氏。同新人賞に俳優・今井朋彦氏。それぞれ業績が讃えられ、誠にめでたいことであった。

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2012年3月19日 | 記事URL

2012/3/18 絹の琴糸

今年度をもって教授職退官の安藤政輝氏にご案内頂き、最終講義に代えた記念演奏会を上野の東京藝術大学音楽学部奏楽堂で聴いてきた。
今や数少なくなった宮城道雄直門の演奏家として宮城曲の研究と普及に尽力して来られた氏の業績を象徴する演目が並び、実に聴き応えがあった。

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2012年3月18日 | 記事URL

2012/3/17 三浦春馬賛江

芝居好き=シアターゴーアーとは、基本的にミーハーなものである。
世間で評判、あるいはちょっとした掘り出し物、となると、蟻が蜜に集うが如く群がって話題に遅れまいとするアサマシさ。

といふわけで、これまでスクリーンやテレビ画面の中で活躍し生の舞台とは縁が薄かった三浦春馬クンとはいかなる役者かこの目で確かめるため、赤坂ACTシアターで上演中の〈海盗セブン〉を拝見。

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2012年3月17日 | 記事URL

2012/3/16 「とうきょうスカイツリー駅」

東武鉄道伊勢崎線の「業平橋駅」の駅名が3月16日をもって廃せられ、翌日から「とうきょうスカイツリー駅」に改称される。
開業時から数えると、「吾妻橋駅(1902~4年)」→「浅草駅(1910年再興~31年)」→「業平橋駅(1931~2012年)」→「とうきょうスカイツリー駅(2012年)」と変遷を重ねたわけだ。

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2012年3月16日 | 記事URL

2012/3/15 能作の源としての〈阿古屋松〉

朝日カルチャーセンター新宿校の定期講座で〈阿古屋松〉を味読。

作品としては幾多の問題を抱えたこの曲だが、名木に案内する展開で〈遊行柳〉を、修辞の点で〈高砂〉を、舞事の挿入と末尾の構成で〈西行櫻〉を、賀茂社臨時祭の舞の趣向で〈實方〉を、それぞれ生み出す源となっていることがわかる。

〈遊行柳〉、〈高砂〉、〈西行櫻〉、〈實方〉、これだけの数の名曲の制作力と直結する能は、ほかにあまりない。
現代人の価値観に勝って、〈阿古屋松〉は世阿弥の思いがかなり横溢した一作なのだろうと思う。

2012年3月15日 | 記事URL

2012/3/14 ミュージカル〈スリル・ミー〉

近ごろのニュースで最もあきれ、かつ、情けなかったのは、卒業式参列の教員がキチンと〈君が代〉を歌っているかどうか、大阪府立和泉高校の校長が教頭に命じて、参列教員の口元の動きをチェックさせた、という実に馬鹿げた一件である。
大阪市長が「トップとして当然だ」とこれを擁護したらしいが、法というものの恐さと滑稽さを象徴する発言。そして、この2人とも、「法を守り矩を越えない」理性の人ではなく、むしろ「法を弄する」立場に立つ弁護士出身であることは一考に値しよう。
ヒトラーが政権を握ったのもオーストリアを併合したのも、すべて合法的手段に依っていた事実を改めて肝に銘じなければなるまい。

それから思い付いた訳ではないが、初日を迎えたミュージカル〈スリル・ミー〉は法曹志望の若者2人の「破滅」の物語である。

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2012年3月14日 | 記事URL

2012/3/13 弛緩 

本日は新橋演舞場の昼の部を観劇。

連日刺激的な舞台の中で日常的な歌舞伎興行を見ると、妙に弛緩したところが目に立って仕方がない。
〈荒川の佐吉〉にせよ〈忠臣藏九段目〉にせよ、どうしてこうも芝居の調子が低いのか。
このごろの歌舞伎芝居の品格の低下を、私は非常に居心地悪く思う。
以下、後日細評。

明夜初日の小劇場ミュージカル〈スリル・ミー〉、実はちょっと(と言うよりかなり)期待。
人気沸騰とて完売だが、当日抽籤の券も出る由。

2012年3月13日 | 記事URL

2012/3/12 皇后陛下の喪服

昨日の東日本大震災1周年追悼式。
参列された皇后陛下の装いを見て、極端に言えば、私は腰が抜けるほど驚いた。

「黒無地五ツ紋の喪服」を召して国家公式の場に出られた皇后は、過去に一人もない。
これは、服飾史上ひとつの大きな「事件」である。

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2012年3月12日 | 記事URL

2012/3/11 草笛光子の弔鐘

本日、志木市民会館で千穐楽を迎えた〈6週間のダンスレッスン〉は、東北圏を中心にした巡業の最後を飾るもので、大都市近郊では唯一の上演。
震災1ヶ年の祈念日に合わせたところに、深い意味があろう。

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2012年3月11日 | 記事URL

2012/3/10 「お定のモリタート」

松濤・観世能楽堂にほど近いところで開催された篠井英介「唄の会」に潜入。

プーランク「愛の小径 Les Chemins de l'Amor」、ピアフ「ミロールMilord」など、篠井のニンに合った小唄の類に交えてさりげなく披露された、珍曲「包丁お定のモリタート」。

当夜の、ひとつの圧巻である。

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2012年3月10日 | 記事URL

2012/3/9 銕仙会の〈國栖〉 

本日は水道橋で銕仙会例会。

観世銕之丞の〈國栖 白頭・天地之聲〉は問題の多い出来ばえだったが、戦中改悪以来の大成版で「やごとなき御方(身分の高いお方)」とぼかした表現になっているところ、すべて「淨見原の天皇」と旧に復していたのは(この会派としては既に普通だが)評価できる。

〈鉢木〉の一節「松はもとより煙にて」を、徳川氏=松平氏に遠慮し「松はもとより常盤にて」と言い換えたまま現在に至る宝生流の例もあるように、能楽史上こうした表現の改変は枚挙に暇がない。
それだけ能が社会情勢と不可分に歩んできた証左なのだが、今後はそういうことすら生じなくなってしまうかもしれないと思うと、複雑な気がするのも確かである。

2012年3月 9日 | 記事URL

2012/3/8 新国立劇場オペラ〈さまよえるオランダ人〉

新国立劇場の初日が開いた。
ゼンタを歌ったジェニファー・ウィルソンが相当の熱唱で聴かせる。

名高い幽霊船伝説を扱ったヴァグナー初期の作だが、隠喩に満ちた内容なので舞台化にさまざまな可能性がある。
終末、ゼンタの自己犠牲(ある意味で女性蔑視に繋がる、ヴァグナーが終生愛した主題)によって「救済」があるのかどうか、という点がこの作品ではミソ。
序曲末尾ではカットした、ハープの美しい救済の主題の旋律を、オペラ最後ではカットせず(省く版もある)演奏したが、舞台面でそれが具現化されていたとは言えなかったようだ。
つまり、中途半端な印象である。

初日なのに空席が目立って残念。
お好きな方にはお勧めしたい。

2012年3月 8日 | 記事URL

2012/3/7 「襲名ぢゃ、襲名ぢゃ」?

本日は平成中村座昼の部を観劇。
六代目勘九郎襲名披露興行の第2ヶ月目である。

昼の部の披露狂言は〈大藏卿〉檜垣・奥殿。
阿呆ぶりまでキチンと父親写しに勉強している新勘九郎の折り目正しさは、称賛に値する。

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2012年3月 7日 | 記事URL

2012/3/6 新作能〈聖パウロの回心〉

本日午前、表題の能を池袋・立教大学タッカーホールで見てきた。
ご存じのとおり、「回心」とはキリスト教信仰に目覚めることである。

招待制の半公開公演だから正規の批評の対象外かも知れないが、確かに、新作能史上ひとつの業績である。別途、批評の項に上網したい。

棕櫚の葉を葺いた塚の作リ物に入ったイエス(観世清和)が、小鼓のノットに乗せて迫害者サウロ(回心前の聖パウロ)に呼び掛ける謡、「なうなうサウロよ。そなたはなぜそのやうにわれらを虐ぐるぞ」(文語訳『使徒行傳』第9章の「サウロ、サウロ、何ぞ我を迫害するか」に該当)が出色。硬質でコトバの明確な清和の謡の力が、姿を見せないままこの能の焦点を形づくった。

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2012年3月 6日 | 記事URL

2012/3/5 乍憚口上

本日は平成中村座の勘九郎襲名披露3日目を見た。
勘三郎のお徳はなかなかのもので、先月の権八しかり、病後、藝が深化したと思う。

とは言うものの、松席で17,000円はいかにも高い。
2人連れで行って食事でもした日には簡単に4万円を越えてしまう。尋常の額ではない。

勘三郎が本日の口上でも言っていた、「数百年に亙る歌舞伎を今後ともご愛顧を」と願ったとて、1年に1度しか見ない観客を100人作っても、いつまで経とうが彼ら彼女らは観光客と同じ目線、藝の善し悪しを語れる観客にはなり得まい。
これは私の持論だが、質的に歌舞伎を向上させるにはそうした観客を100人作るよりも、年に10回は歌舞伎を見る観客を10人作ったほうがよほど得策なのである。

そのためには、安価で何度も見られる席を設定するのが必須。
役者だけではなく観客も、ヴィデオに拠らず生の舞台を数多く見て鑑賞眼を養わねば嘘である。
もっとも、ただ数だけ見ても仕方がないのだが。

2012年3月 5日 | 記事URL

2012/3/4 鹿島茂『怪帝ナポレオン三世』

本日は大阪で片山九郎右衛門の〈鸚鵡小町〉初演を見に、トンボ返りのスケジュール。
新大阪駅に直行して新幹線に乗り込んだら、つい今まで〈鸚鵡〉の地頭を勤めておられた片山幽雪氏も乗っておられてびっくり。
歌舞伎俳優や能楽師の身仕舞の速さには一般人の想像を超えるものがあるが、なるほど改めて感心した次第。

往復の新幹線で表題の本を読了。
「第二帝政全史」と副題を据えた、現在では講談社学術文庫に入っている一書である。

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2012年3月 4日 | 記事URL

2012/3/3 能の復曲・新演出の問題点

大槻文藏氏のシテによる新演出〈戀重荷〉再演は先刻無事に演了。
全曲約65分。きわめて密度の高い舞台成果だったと思う。

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2012年3月 3日 | 記事URL

2012/3/2 新演出〈戀重荷〉再演

一昨年に大阪・大槻能楽堂で初演した新演出版の〈戀重荷〉が、3月3日(土)午後1時から東京・観世能楽堂での東京清韻会別会で再演される。
本日、その申し合わせに臨席して確認した。なかなか期待できそうだ。

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2012年3月 2日 | 記事URL

2012/3/1 『枕草子』の藤原實方

本日は朝日カルチャー講座の第1回で、藤原實方の生涯とその伝説を講義。
虚実さまざまに語られる實方だが、関係の深かった清少納言による『枕草子』の証言は、同時代の記録としてはなはだ貴重と改めて思った次第。

豊明節会の席上で美女に歌を詠み掛ける實方の、衆人環視を意識したポーズ。
派手やかな詠みぶりを尽くしたその歌の劇場効果。
自らここに割って入るように返歌を代作する清少納言。
2人の「大人」に挟まれながら人間性を活写される若き美女。

實方の人となり、その場の状況を鮮やかに切り取った清少納言の筆致がすばらしい。

同じ三巻本系諸本でも数え方が異なるので段数は一概に言えないが、書き出し「宮の五節出ださせ給ふに」の段。
復曲〈阿古屋松〉で藤原實方に興味を抱かれた向きに、是非ご一読をお勧めしたい文章である。

2012年3月 1日 | 記事URL

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