2012/3/19 平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式 | 好雪録

2012/3/19 平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式

表題式典および祝賀会が文部科学省で挙行された。私も演劇部門推薦委員として参列。

今年度の受賞者は、演劇部門では文部科学大臣賞に演出家・栗山民也氏と歌舞伎俳優・中村又五郎氏。同新人賞に俳優・今井朋彦氏。それぞれ業績が讃えられ、誠にめでたいことであった。

芸術選奨は当該の1ヶ年に挙げられた業績で銓衡されるので、文学部門ならばその年の出版、美術部門ならばその年の制作が対象となる。
平成14年度までは別に古典芸術部門が独立していたから、古典藝能関係は相対的に優遇されていたわけだが、それでも古典邦楽など音楽部門で受賞していた例もあって何かと矛盾・問題が生じ(予算の問題もあろう)、翌年度からは古典芸術部門は解体、演劇・音楽・舞踊の既存3部門に吸収され、現在に至っている。

私は古典劇評論の立場だから古典演劇関連の推薦要員というかたちになっているのかもしれないが、別に特定のジャンルに限った推薦の誘導をされることは一切ない。どのようなものであろうと演劇全般に目配りし、自分で独自に判断すれば良いのである。

それにしても、能・狂言は分が悪い。いつも言うとおり、定員が少ない能楽堂での1回公演では、いくら名演でも人の目に触れることが少なすぎる。
古典芸術部門廃止後、演劇部門として大臣賞を受賞した能楽師は、浅見真州(平成16年度)、山本則直(平成17年度)、塩津哲生(平成18年度)の3人。ただでさえ多彩を極める演劇畑、並み居る他ジャンル候補者の中で残るとはよほどラッキーであり、また、それにふさわしい仕事をなし遂げていた、ということになる。

平成17年度には美術部門の受賞者に盗作問題が発覚、翌年に取り消しの事態へ発展し社会問題になった。美術部門については、作者の受賞歴が作品の市場価値に反映されるため、昔から小説ネタにもなるほどナマグサイ側面もあるのだろう。
かといって、音楽や演劇のようにその場で消えてしまうものの評価にはデリケートな性質がある。一般演劇のように、専門知識がさほどなくても善し悪しが明確に分かれ議論され得るものと、能または雅楽や古典邦楽のように、一定レベルの専門知識がないと感性だけでは議論が成立しないものとがあって、こうした問題で快刀乱麻を断つわけにはゆかないものだ。当然、さまざまな課題は現在も残されている。

ただ、たとえ能・狂言あるいは歌舞伎のような古典であっても、やはり現代人によって上演され、現代人が見る「舞台演劇」であることに変わりはない。そうした開かれた視線の中で古典藝能が評価されることは、厳しさを伴いつつも本質的には健全だと、私は思う。

現代一般のシアターゴーアーたちに「能を見ろ」とは簡単に勧められないけれど、能が好きだから能しか見ないでいると、いくら細部に精通したとしても、結句「能は分からないのではないか」と、私は思うのである。

2012年3月19日 | 記事URL

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