2012/3/20 貝母百合 | 好雪録

2012/3/20 貝母百合

晴れて15度より気温の上がる日が続かないと爛漫たる春を実感することはできないが、今年はまだ。
しかし、陽射しはすっかり春だし、3月に入ってはコートも着ずに外出するのが常になった。

庭で貝母が背丈を伸ばし、莟をつけている。

貝母はバイモと読み、貝母百合とも称する。
漢方でも用いる薬種。一般的にはアミガサユリ(網笠百合)と呼ぶかも知れない。
ごく地味な草で、花開いて薄黄色になるとかえって美しくないから、葉と同じ浅緑の瑞々しさを残す莟のうちに剪って、椿などと合わせて飾ると清楚で良いものである。

茶の湯では、5月初旬の立夏をメドに、座敷畳に切った炉を塞ぎ、据え置きの風炉を出して室礼を改める。同時に、炉と風炉と、道具類を入れ替える風習があって、床の間に活ける花にもその区分けがある。
さまざまな品種があって花期の長い椿は炉の花の代表で、風炉になると決して用いない。似たものでも、牡丹は炉の花、芍薬は風炉の花、それぞれそう定められている。

だが、最近は気候が変動したこともあり、納まりが付かない例も多い。
たとえば菊は風炉の花だが、菊が本当に盛りになる立冬後の11月初旬以降は炉の時期に変わってしまう。なので特例ということで、葉が赤く染まったものなど「寒菊」と称し炉の花に扱うことにしている。
平安文学で藤は惜春の花と定まっているが、茶の湯では風炉の花だから初夏の部類。

その伝でいうと、貝母は本来は風炉の花なのである。
しかし、まずその時分になると花は終わり姿は衰え、早くも夏季休眠の準備に入ってしまうので、用いることは難しい。したがって、今は誰でも炉の名残のあしらい花にしている。

こうした昔からの定めなり掟なり、守ること、あえて外すこと、それら総体にその人の見識が問われるのが面白い。
知っていて外すこと。知らないで外れること。
結果は同じでも、内実はまったく違うのだ。

2012年3月20日 | 記事URL

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