2012/5/17 源頼政の和歌と人物 | 好雪録

2012/5/17 源頼政の和歌と人物

本日は朝日カルチャーセンターの定例講座で、能〈頼政〉を扱うに先立って、彼が実際に詠み残した和歌を『源三位頼政集』から抜粋して味読した。

『新古今』に収められた「庭の面はまだ乾かぬに夕立の空さりげなく澄める月かな」は『玉葉』『風雅』の詠風を先取りする名歌だが、この歌に限らず、頼政には世の歌人の嫌がる夏歌に秀歌の多いことも発見だった。

別項「維納見聞記」に挙げた中公新書『河内源氏』には別系の頼政のことはさほど触れられない。が、清和源氏の中では嫡流の摂津源氏であり、非参議ではあったがそれまでの武家源氏でただ一人、三位の高きに昇った男として、彼の人間性には汲めども尽きない興味が涌く。若き日の鴨長明が歌人として恐らく仰ぎ見る存在だった頼政のことは彼の随想『無名抄』の随所に活写されていて、人として情愛のある、ケジメのキチンとしたその性格は800年を経ても身近に感じられるものだ。

世阿弥がそのことをどの程度反映させて能を作ったかは分からないけれども、ほとんど伝説の域を出ない個人史しか浮んでこない他の修羅物の主人公と比較すると、豊富な史料や傍説等からも格段に実在感に恵まれている人物が源頼政なのである。

2012年5月17日 | 記事URL

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