2012/5/29 NHK-FM「名曲の楽しみ」 | 好雪録

2012/5/29 NHK-FM「名曲の楽しみ」

吉田秀和さんが亡くなって、思うことがいろいろ多い。

表題は、41年間にわたって続けられた偉大な音楽番組である。
たっぷり1時間、吉田さんのラフな語り口で、しかし言っている内容はきわめて深いことを、作曲家や演奏家にじっくり焦点を当て、演奏を聴きながら何十回も追求してゆく本格的な教養番組だった。
教養が最も上質な娯楽であるというのが吉田さん世代の身についた考えだったと思うが、戦前の帝大的教養志向とこれを相対化するのは簡単でも、やはり、クラッシック音楽というもの、また古典藝能というものは、こうしたところを去らずに存在し続けられないのではないだろうか。

以前は日曜日の朝で、高校から大学の頃は能楽鑑賞とともによく聴いていた。現在は土曜日の夜と木曜日の午前に放送中だった。
吉田さんの逝去でどうなるのかしらと思ったら、年内一杯は継続の由

まだ聴いた事のない方は、是非とも耳を傾けて頂きたい。

専門的で余計な解説のない番組だから、初心者向けの啓蒙とは必ずしも言えないかもしれないが、吉田さんの語っていることは、本質的には決して難しいことではない。
かえって、こんにち考えられている「啓蒙番組」が、往々にしてどれほど皮相なものであるかが、これによって明らかになるのではなかろうか。

土曜日の午後9時というと、私はこの時刻に在宅することはもうほとんどないのだけれども、ほんとうはこうした番組をお茶でも飲みながらゆっくり聴いて、翌日の日曜日が豊かな一日になるよう静かに眠りに就く、そうしたものが人間の生活、ではあるまいか、とも思う。

このような番組が持てる音楽評論家は、もう今後、ちょっと思い当たらない。

2012年5月29日 | 記事URL

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