2012/5/8 新国立劇場〈白鳥の湖〉 | 好雪録

2012/5/8 新国立劇場〈白鳥の湖〉

今宵の主役はオデット&オディールをワン・チーミン=Wang Qimin=王啓敏、ジークフリート王子をリー・チュン=Li Jun=李俊という、中国中央バレエの花形2人を迎えた。

2幕目まで双方とも堅く、ことに李俊は3幕目の舞踏会の場で正面に現われても委縮気味だったのは心配されたが、さすがにどちらもテクニック的にはすばらしいものがあり、全幕の焦点たる第3幕・黒鳥のグラン・パ・ドゥ・ドゥでは切れ味のよいところを堪能させてくれた。

でも、もともと本来はザハロワのオデット&オディールが予定されていたのだ。
現在世界最高のオデット&オディールが、原発事故後の来日忌避でもあろうか、見られなくなったのは実に寂しい。

それと、この出し物では道化がおいしいところを持って行く。
新国立劇場では長らくグレゴリー・バリノフの巧みな道化が天下一品だった。すでに卒業?してしまったのは残念。
今宵の八幡顕光も小味が効いていて巧いのだけれど、バリノフ君の明るいやんちゃぶりと3幕目最後で頭を抱え「大変だ~!」というクサい芝居すらできる万能ぶりは、やはりまた見てみたいと切に思う。

ヴィーンから戻ってつくづく思ったのは、新国立劇場の音響の良さ。
アン・デア・ヴィーン劇場など足元にも及ばない、潤いのある響きは誇って良いものだ。
ただし、シュターツオパーの、少しデッドでありながら楽器個々の音色が混濁せずクリアなまま遠鳴りする音色は、やはりあの劇場だけの具える「大人の響き」だ。
それに比べると、新国立劇場は「劇場そのものが楽器である」というのではなく、「音を効率良く響かせる設計がしてある」良さである。

「ホールそのものが楽器」の最たるものは、ヴィーン楽友協会のゴールドナーザール
あれは実に驚異的存在で、ああした劇場なりホールがわが国にできる日は恐らくないかもしれないが、設計士の図面で成り立つ範囲を超えた「音の空間」というものを考える意味は大きいのではないかと思う。

2012年5月 8日 | 記事URL

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