2012/5/9 Bunkamuraシアターコクーン〈シダの群れ〉 | 好雪録

2012/5/9 Bunkamuraシアターコクーン〈シダの群れ〉

岩松了の作・演出による任侠劇〈シダの群れ~純情巡礼編〉を見る。

2010年9月に上演された第1作を受けての第2作だから、開幕して相当長い間は連続テレビドラマを途中から見せられたようなジレッタサが抜けず、本作の最後も亡き父の親友として父同様に愛していた水野(風間杜夫)をヤクザの論理でやむなく坂本(堤真一)が殺害するところで幕にして次作に含みを持たせたので、「第2作」だけ見ると納まりが付かない感。

ハードボイルド的な展開の中に、いかにも日本人特有の無常感を湛えた情念が漂うのは岩松戯曲・演出の特長と言えるだろう。

ただ、軽妙さを具えた生一本な色男ヤクザ・坂本の堤真一がちょっとオイシイ役に作られ過ぎていて鼻白む点があるのと、堤を「兄貴」と慕う自発的な鉄砲玉・泊を演じた小池徹平がアイドルとしての華はあっても舞台初出演で素養のない哀しさ、声が細く滑舌が悪く何を言っているのやらサッパリ分からないなど、ヤクザモノにほとんど共感のない私にとって、15分の休憩を挟んで2時間半は正直言って少々長い時間でもあった。

任侠の世界には男色に酷似した男同士の紐帯が付きものである。この芝居でも坂本は水野に、泊は坂本に、激しい愛を捧げている。
だからこそ、自らが刺されることを知っていてあえてそのように事態を仕向け、坂本に節を曲げさせることなく命をくれてやる水野の最期だけは、ちょっと涙なしでは見られない場面となっている。その分、割りを食うのは女優たちである。

坂本に心を寄せるヤスコ(松雪泰子)は報われず、坂本の妹・可奈子(倉科カナ)は泊を愛するものの、坂本に激しい心を燃やす泊に捨てられて、ついに拳銃自殺を遂げる。
倉科は、好きで堪らないがゆえに却って男に嫌われる女にありがちのベタベタした演技を課せられていて、見ている私もイヤ~な心地にされられたし、臙脂や紫の挑発的なドレスにヒールの高い靴を履いた松雪はスタイル抜群で実にステキなのだが、坂本には結局全否定されてしまうから役としてはなはだ締まらない。
この2人の女性役に対する酷薄とも言える処理はむしろ美事であって、岩松の世界観の一端をよく示している。男色的なセリフはまったくと言って良いほどないものの、女たちが情けないハメに陥れば陥るほど、水野・坂本・泊ら「男たちの愛の構造」だけはよく透けて見えるのである。

それだけに、阻害された同性たちのために女性ファンからはブーイングが起こってしかるべきだと思うのだが、詰め掛けた堤ファン、徹平ファンたちはそんなこと関係なくウットリ見入っていたようで、渋い芝居であるのにはなはだ入りが良いようなのは大慶である。

2012年5月 9日 | 記事URL

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