2012/6/1 絶賛!!新国立劇場・フォークトの〈ローエングリン〉 | 好雪録

2012/6/1 絶賛!!新国立劇場・フォークトの〈ローエングリン〉

先ほど聴いて、もう、すっかり仰天してしまった。
新国立劇場で新演出の初日を迎えた、ヴァグナー作曲〈ローエングリン〉
タイトルロールを歌ったテノール、クラウス・フロリアン・フォークトは、少なくとも私が考える「最高のローエングリン歌い」だ。

昔だったらメルヒオールやヴィントガッセン。近くならば(私もタンホイザーを堪能した)コロ。そうした人たちをヴァグナーの重量級を歌いこなす「ヘルデンテノール」と言うのであれば、フォークトの声は明らかに軽いし、明るい。

だが、考えても頂きたい。
聖盃守護の聖騎士・ローエングリンとは、完全に超現実的な、無垢至上の役柄なのだ。
コンヴィチュニー級のキレ者がこの役をいくら読み替え、相対化し貶めても、歌そのものが俗化して手垢と体臭にまみれたら、それはもう、初演を指揮したフランツ・リストが第1幕の前奏曲を評した言葉「虹色の雲に映ずる紺碧の波紋」そのままであるべきローエングリンではない。

今や、フォークトの声は、それを確実に私たちの目の前に具現化して見せる。
そして、さらに驚くべきことに、こうした声質のテノールにありがちのコントロールの不安定と声量不足という欠点が、彼にはまったく聴かれないのである。
どんな強音も弱音も、彼の声は私の耳元で聴こえるように響き、なおかつ、どの共演者にも勝って良く徹る大きな声であり、さらに、きわめて繊細なドイツ語の語り口を追っている。
何よりも、フリッツ・ヴンダーリヒやアルフレート・クラウスをさえ想起させる、格調と気品が漲っている。

白鳥に曳かれて(と言っても、こんにちのお定まりでここには奇抜な演出上の趣向がある)登場し、"Nun sei bedankt, mein lieber Schwan!"(ありがとう、私の白鳥よ)とフォークトが口ずさんだ瞬間、 私がどんなに驚いたか。
その驚きが、とうとう最後の最後まで続き、彼の声が響く一瞬一瞬を、私がどれほど待ちに待っていたか。

7年前、同じ劇場の〈ホフマン物語〉で彼を聴いた時、ここまでびっくりはさせられなかった。
そうだとすると、彼にとってローエングリンという役はまさに特別な役柄なのだろうし、また、その間にたくさんの経験が彼をそうした歌手にまで高めることに寄与したに違いない。

いや、驚きました。
もちろん、こんな嬉しい驚きは、ちょっと近年に思い当たりません。

昨日、若干の空席があったのは、思い返せば惜しいこと。
さりとてまだ初日が空いたばかり。幸い、私もあと2度、聴き返す機会がある。

オペラがお好きな方、まだ体験したことのない方も含め、是非、初台に足をお運び下さい。
これほどのローエングリン歌いは、そう、おいそれとは出ないはずです。

2012年6月 1日 | 記事URL

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