2012/12/19 歌舞伎座新開場杮葺落興行内容発表 | 好雪録

2012/12/19 歌舞伎座新開場杮葺落興行内容発表

本日、歌舞伎座新開場杮葺落興行の上演演目と配役が発表された。既報のとおり来年4~6月、各月ともに三部制である。

建て替え中に富十郎、芝翫、雀右衛門が鬼籍に入り、勘三郎までもがそのあとを追った。4月の〈お祭り〉は本当だったら勘三郎のために用意された演目かもしれず、やむなく偲ぶ手向けの一幕となったことには深く哀しい感慨を禁じ得ない。新築落成の初月に〈将門〉の屋台崩しとはゲンが悪くはないか?など色々ツッコミどころはあるものの、まずは、八方に気を配ったラインナップだろう。半面、既視感が強いのも否定できない。

東京駅の新装復興以来、観光客が引きも切らない。駅を見るのは無料だからである。
新しい歌舞伎座に話題が集まっても切符は高価だ。全興行を良席ですべて見れば相当の散財である。無理をして集客しても、それがただイベント見物の一過性の観客である限り、歌舞伎芝居のため長期的にはさほど寄与しない。
今後10年、20年後の観客をどのように育ててゆくか、松竹の見識が問われようし、それは結句、演目と配役によっても具現化されるもので、ただ宛がわれたように役者の技藝だけを眺めていれば観客の質が向上するものではないのである。
歌舞伎役者の実数そのものが極度に減少したいま、興行数を絞り、質を上げなければいけない転換期に差し掛かっているものの、肝腎の「古典」に対する歌舞伎関係者の自信喪失が拭えないのではなかろうか?

先にも書いたとおり、死んだ勘三郎の最も重要な業績は、野田秀樹や串田和美との連携ではなく、古典への真摯な対峙だった。この世代ほとんど唯一の座頭役者だった彼の亡き今、ある意味では歌舞伎存亡の危機が迫っていると言ってもよい。

新しい歌舞伎座には、何よりも、伝承演目の素性正しい上演に努めて貰いたいと切に思う。

2012年12月19日 | 記事URL

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