2012/12/31 能・狂言~平成24年の名舞台~ | 好雪録

2012/12/31 能・狂言~平成24年の名舞台~

こと歌舞伎に限らず本年の日本演劇界最大かつ最悪の話題が勘三郎逝去の悲報だったことは誰もが認めるだろう。

先刻のNHK紅白歌合戦で和田アキ子の歌は彼(および森光子)に捧げるものだった。
が、私にはむしろ、和田に先立って文字どおりの絶唱を披露し、恐らく全国のお茶の間に計り知られぬ衝撃をさえ与えたであろう、声すがれ気迫あくまで激しい77歳の美輪明宏の歌う〈ヨイトマケの唄〉が、勘三郎の早世をも含めて、時として不当とも思われる宿命、この世に存在せざるを得ぬあらゆる矛盾・不公平、そうしたもろもろに対する果てしない慟哭のように思われてならなかった。

さて。
私が見た今年の能・狂言で特筆すべき名舞台を数え挙げてみたい。(数字は上演日時順)

1)片山幽雪 〈鉢木〉 1月22日/片山定期能
2)關根祥六 〈羽衣 彩色〉 2月23日/都民劇場
3)観世清和 〈江口 平調返〉 4月1日/25世観世左近23回忌追善春の別会
4)友枝昭世 〈檜垣〉 4月27日/曾和博朗米壽記念能
5)野村万作 〈祐善〉 6月13日/東京囃子科協議会能
6)山本順之 〈浮舟 彩色〉 7月13日/銕仙会7月定期能
7)塩津哲生 〈木賊〉 10月6日/第10回塩津哲生の会
8)大槻文藏 〈姨捨〉 12月15日/第18回大槻文藏の会

關根祥六の〈羽衣 彩色〉は瑕の多いものだったが、『能楽タイムズ』月評に記したとおり、それだけでは排しきれない手応えと問題提起を含んだ舞台。
観世清和はほかに国立能楽堂の復曲〈阿古屋松〉、秋の別会で小書復興〈定家〉、〈江口〉と同格の成果を挙げた二つの舞台も印象に残った当たり年。
山本順之には塩津哲生の会に客演した舞囃子〈山姥〉という大傑作もあった。

この中で、あえてベスト1を選ぶとしたら、大槻文藏の〈姨捨〉である。
これまで数多い大槻の演能の中で冠絶する成果。将来への課題と目標という意味でも実り多い舞台だった。

この〈姨捨〉を含め12月分の能・狂言批評は『能楽タイムズ』月評として同紙2月号に執筆。
掲載の折には高覧を願います。

2012年12月31日 | 記事URL

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