2014/2/11 新版〈天守物語〉プレ本読み | 好雪録

2014/2/11 新版〈天守物語〉プレ本読み

今日は神楽坂のライヴハウス・THE GLEEにおける「女流義太夫Special Live Vol.2」で竹本駒之助の素浄瑠璃〈玉藻前曦袂〉三段目ノ切「道春館」がとにかくすばらしい至藝で堪能させられた。明日・12日(水)19:00から再演がある。愛好家にとって「すべてを擲って駆けつける価値あるもの」。東京圏に住む未聴の方には是非オススメしたい。

夜は4月の新版〈天守物語〉について、主演の大空祐飛さん、総監督の梅若玄祥さん、プロデューサーの西尾智子さんと集まり、主役・富姫のセリフについて打ち合わせを行なった。富姫のセリフ全部を大空さんに言ってもらった上、発音と発語、音の高低、フレージングや色付けなど、かなり細かなところまで個々の部分で私が意見を出し、摺り合わせてゆく作業である。

周知のとおり鏡花戯曲はセリフが生命。ただ、机上の繙読ではなくそれを舞台上で血肉化するには、コトバをどう生かすか、微に入り細を穿った設計が必要で、それを欠いては劇が成り立たない。
ただし、歌舞伎や新派と違ったかたちで鏡花劇を演ずる際には、セリフの言い回しについて「これ」という規範が設定しにくい。現代では耳遠く難解な言葉の連続とて、役者個々の仕勝手に任せて放置すると様式的に妙なものとなりかねない。補綴の際に富姫のセリフには一語一句の削除も変更も施していないのだけれど、「ここはこう発せられるべきだろう」という具体的な指針は全体にわたり一応持っており、また、その用意なくして脚本補綴など名のれない。今日の目的は、全体を支える主役・富姫のセリフの表現設計について、上演の参考としての私見をみなさんの前で示すことにあった。

もっとも、「発音と発語、音の高低、フレージングや色付け」と言ったが、鏡花戯曲は伝承藝能ではないから、「絶対に、こう」という約束が厳としてあるわけではない。
たとえば、「五百石」。通常の発音では「ゴヒャッコク」の「ヒャッ」が高い。しかし、〈九段目〉戸無瀬のセリフをよく聴いている人ならわかるとおり、歌舞伎では「コ」を高く言う。〈天守物語〉にも「五百石」と出てくるけれど、これを歌舞伎の戸無瀬のように「コ」を上げて言ったら違和感だけが際立って観客の耳にはコトバとして不自然だろうから、それは採らない。
また「夜叉ヶ池」は「シャガ」を高く言うのが現代日常の発音である。だが、あえて古風に「ヤ」を高く言うとコトバとしてアクセントが付き、場所によっては日常の発音には期待できない効果が挙がる。だからこれは「ヤ」を高く言ってもらう。
こうしたチェックをはじめとした「プレ本読み」を今宵、行ったわけである。

今後、役者としての大空さんの創意工夫も凝らされ、演出・高橋正徳さんの意見も詳細に反映されよう。その叩き台としての設計が事前に成り立っていれば心強い。それほど鏡花戯曲は役者の心構えを問う「強さ」を持っている。
「鏡花つながり」とはいえ〈天守物語〉は大空さんの前回出演作〈唐版・滝の白糸〉とまったく違った作品だが、シッカリした声音と凛としたニンと、天守夫人富姫は大空さんに恰好の似合い役。今日のプレ本読み作業も大空さんのまことに真摯で熱心な打ち込みようによって万事スムーズに終了したのは大きな収穫だった。ファンの方々にとって楽しみな舞台となることは請け合いである。

明日は主要出演者のほとんどが揃って「読み合わせ」がある。
そのご報告はまたこの場で。

2014年2月11日 | 記事URL

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