2014/5/23 驚天動地の水族館劇場〈Ninfa~嘆きの天使〉 | 好雪録

2014/5/23 驚天動地の水族館劇場〈Ninfa~嘆きの天使〉

爽快な本日。午後から帝国劇場〈レディ・ベス〉再見の後、国立劇場で打ち合わせ。
今秋の能楽堂でちょっとした企画があり、追ってお知らせできることと思う。乞ご期待。

さて。夜は三上博史さんのお誘いで表題の芝居を観劇。
これがもう、木戸銭を2、3倍積んでもお釣りが来るほど渾身の見世物劇でビックリ。
物見高さを誇る好事家諸兄諸姉には必見とオススメする。

同劇団は野外劇の移動公演を常態に1987年旗揚げ以来の歴史を誇っており、制作部に早大・演劇博物館の梅山いつきが在籍する縁でか2011年には同博物館で展観も催されたほどであるから、今さら私なぞが喋々するまでもない「知る人ぞ知る」レアな劇団である。
三上さんが昨年たまたま見て、「とにかく面白いから、ご一緒しましょう」とのこと。
物見高さにかけては人後に落ちない私も今回お相伴し、すっかり驚き入った次第。

配付パンフレットに記された作・演出の桃山邑の劇コンセプトは以下のようなもの。

......てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。20世紀初頭。出雲から流れてきた女と、追われゆく渡り職人 だった男が北の島で出会い娘がうまれる。一家は海峡を越えて樺太からシベリアへ。沿海州には文化の異なるひとびとが棄郷の民として暮らしていた。日本からは兵士と娼婦と曲馬団。凍てつく河口の港町にロシアの内乱が押しよせてくる。ディアスポラのはてに、ひとりになった少女はふたたび日本へ。網走、津軽、東京。成長した彼女の家族もまた、飢餓と貧困に列島をうろつく。生きのびるために流浪してゆく、とるにたらないひとびとの影のいちれつ。国家にまつろわぬ不埒な民の移動は社会を揺する。遠い薄闇の宿神がたちのぼる。希望への不安から絶望の確信へ。おおきな河のうねりのような近代の崩壊を描いて、みはるかす人間社会の到達点を抉る。水族館劇場渾身の野戦攻城の彼方に、幻の混民族共和国が揺れている。乞うご期待!

もっとも、連日改稿に次ぐ改稿が試みられているらしく役者は大変。
たださえ長いセリフがつっかえたり、間が違ったり、間近な舞台だけにハラハラさせられるところもあり、従って上記のプロットが芝居として凝縮せずイメージの拡散で終わってしまう嫌いもなしとしない。
だが、可能性としての桃山の筆力は相当のものであり、じっくり腰を据えて定本を書き定めたら骨太の芝居に化ける要素は多大に含んでいる。

それより何より凄いのは、街中の神社の敷地を縦横に用いた、野外とテント内を往還する空間づくりのすばらしさ。

「奇想天外より落つ」とはまことにこのこと。閑静な住宅街の真ん中に鎮座する太子堂八幡神社の狭い物陰に文字どおりの「芝居小屋」を建て、開演15分ほど前より小屋前の仮舞台および高木に攀じ登って繰り広げられる「前狂言」から始まり、小屋内には上手下手に盆を2つも組んだ大道具と舞台下には大水槽を備え、空から雪は降るは、向こう幕を開ければトロッコは走るは、果ては〈乳房榎〉もかくやとばかり豪勢な本水が降り注ぐすさまじさ。
この、今風のCGや効果音に頼らず、あくまで「手作り」から発して究極の贅を尽くした舞台づくりの妙だけでも、演劇関係者には是非一度実見してもらいたいものである。
そしてこれが、本当に単なる町の氏神社の狭い狭い神域で成り立っている不思議。
(夜の10時前まで相当の物音も出、近所に挨拶はどうしているのかしら......)

6月3日(火)まで。問い合わせは☎080-5885-5365
世田谷線「西太子堂駅」下車3分の太子堂八幡神社境内特設野外舞臺「化外の杜」

開演は午後7時。ただし、「前狂言」のため6時45分には現地に着いていたほうがよろしい。
見世物小屋とて小屋内は飲食自由。売店があり、幕間には物売りも出る。

興行ごと意に感じて集まり散ずる劇団の常として役者の演技レベルは高低さまざまだが、「路地裏にひそむ黒い襤褸布・ぼろ」役の千代次の廃残の叙情味や「贋の蝦夷錦をでっちあげる糸非人・縫」を演ずる風見宇内の重い存在感は強烈であり、「幻の姉を求めて列島をさまよう家出少年・ノリオ」の七ツ森左門の可能性も頼もしい。
ほかにも見る人それぞれ、贔屓の役者が見つけられよう。

まこと、これは一見しないと損。
東京近郊の方には是非オススメします。

終わってから三上さんたちと一献。劇団関係者も交えた芝居談義で二度楽しい夜でした。

2014年5月23日 | 記事URL

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