★平成26年/2014年の能・狂言「心に残る舞台」 | 好雪録

★平成26年/2014年の能・狂言「心に残る舞台」

今年は大学役職の関係もあって、例年に増して観能の時間を取るのに苦心。1年の間に見ることを得た能・狂言の総公演数は90公演で前年に比べて10公演減少。当日になってやむなく諦めたものを思い返せば、なるほどこの程度になるだろう。
さりとて私の持論として、能・狂言の同時代批評に本当に携わるなら同時代他ジャンルの舞台藝術を多く見て考えなければ嘘、と思う。それらを加えて数え上げたら、大小合わせ足を運んだ舞台総数は(能・狂言を含め)延べ241公演。
そんなことで余暇らしい余暇もなく、HPの更新がはなはだ停滞した次第である。
新年は心機一転、定期的な執筆を心掛けようと思います。

ということで2014年=平成26年、心に残る(優れた)能・狂言の舞台を数え挙げる。(日付順)

1)梅若玄祥〈井筒〉 1月17日/国立能楽堂定例公演
2)梅若玄祥〈隅田川〉 2月2日/観世会定期能
3)大槻文藏〈鸚鵡小町 杖三段之舞〉 2月22日/大槻能楽堂自主公演
4)梅若万三郎〈鉢木〉 2月27日/都民劇場能
5)梅若玄祥〈関寺小町〉 3月22日/大槻能楽堂自主公演
6)関根祥六〈卒都婆小町 一度之次第〉 3月23日/桃々会
7)香川靖嗣〈江口 平調返〉 4月5日/香川靖嗣の会
8)梅若万三郎〈江口〉 4月19日/橘香会
9)山本東次郎〈比丘貞〉 5月11日/山本会別会
10)山本順之〈檜垣〉 5月31日/山本順之の會特別公演
11)梅若万三郎〈采女 美奈保之傳〉 6月20日/国立能楽堂普及公演
12)茂山千五郎〈抜殻〉 8月31日/能楽座自主公演
13)梅若万三郎〈雲林院〉 9月7日/観世会定期能
14 )観世清河寿〈采女 美奈保之傳〉 9月12日/銕仙会定期公演
15 )山本東次郎〈月見座頭〉 9月12日/銕仙会定期公演
16 )野村四郎〈鵜飼 空之働〉 9月12日/銕仙会定期公演
17)梅若万三郎〈関寺小町〉 9月21日/鼓樂の会
18)大槻文藏〈江口 干之掛 脇留〉 10月5日/あふさか能
19)野村万作〈川上〉 10月24日/代々木果迢会
20)片山幽雪〈野宮〉 10月25日/大槻能楽堂自主公演
21)梅若万三郎〈通小町 雨夜之傳〉 10月26日/橘香会
22)関根祥丸〈熊坂〉 12月19日/閑能会

以上、思い付くまま、数を限らずに挙げてみた。

中で「これ一つ」を選ぶのはきわめて至難だが、あえて推すならば片山幽雪〈野宮〉。
彼は夏のあいだ軽い心筋梗塞の後養生に専心。能楽座自主公演に予定された〈半蔀〉は梅若玄祥の代演となった。一時は演能からの引退をも考えたという。
けれども、文字どおり満を持して臨んだ10月の〈野宮〉は絶句・錯誤まず皆無と言って良い安定した名舞台で、何よりも強く、美しく、私の予想を遥かに超えた出来。見ていて昂揚を禁じ得なかった。80歳をとうに越えてこの大曲を完全に見せてくれるだけでも驚異讃嘆に値するばかりでなく、「今こそ全盛期」とさえ思わせる弛緩のない実の詰まった成果である。

秀演の数から言えば梅若万三郎が他に比較を絶しよう。昨年12月・梅若研能会〈當麻〉の名演は本年の「満開」を予告するものだったのだ。
「中で一つ」と言えばやはり、彼として10年ぶり2度目となる〈関寺小町〉。現在この秘曲を重ねて演じたシテ方は他に幽雪あるのみ。前回今回とも自催でなく他者に特に乞われた招演による上演であって、それだけでも万三郎の斯界における藝境と立ち位置が窺える。仔細は「能楽タイムズ」11月号に執筆したのでご覧頂きたい。

ほか、多岐に亙るので一々あげつらうことはしない。

ここでひとつ注意しておきたいのは、これらの名演に限らず、巧みな役者ほど老来、藝の実体が上滑りがちになること。
たとえば、子方へ物着を施す新演出による東次郎の〈比丘貞〉は「能楽タイムズ」7月号で絶賛したとおりこの作品に新たな生命を与えた名演だったが、他の場合、その自在さがある意味で「やり過ぎ」と映ることがなくもない。私が11月30日のNHK・Eテレ「古典芸能への招待」で副音声解説を勤めた〈木六駄〉(10月28日/東京発・伝統WA感動 至高の芸、そして継承者~狂言)はテレビでご覧頂いたとおり明朗闊達な好舞台だったけれども、そこにもやはり「やり過ぎ」ゆえの「上滑り」が僅かに萌していたことは否めない。
その意味で、若手役者としてひとつだけ挙げた21歳の関根祥丸による〈熊坂〉は「名演とは何か」ということを考えさせてくれる、「上滑り」のない颯爽たる快演だった。昨年も名舞台に数えた〈羽衣〉に続く無比の好印象である。

新年はいかなる舞台に逢えることか。
色々な意味で心機一転できることを願いつつ、楽しみに待ちたい。

2014年12月31日 | 記事URL

このページの先頭へ

©Murakami Tatau All Rights Reserved.