2012/1/9 己巳 | 好雪録

2012/1/9 己巳

本日は60日に一度の己巳(つちのとみ)で、辯才天のご縁日。
ちょうど初巳でもあり、上野・不忍池の辯才天堂に初詣に上がった。

辯才天はもともと古代印度の川の女神。
サラスヴァティーという水なき川の、幻の水音の神格化で、これが仏教に取り入れられた。
妙なる音の神格化ゆえ、別名「妙音天」とも称する。
これから発し、音楽・藝道、また声をもってする辯舌の守護仏となった。
したがって、「辨財天」と書くのは本来的には間違いであり、宛て字である。
もっとも、日本の中世には穀物神とも言われる「宇賀神」と習合し、その縁で吉祥天に似た福徳の功徳も得た。
「辨財天」の宛て字も、その意味では当を得てはいる。

私も口舌をもって講ずることを生業とする教師の身の上。
「辯才」は大切である。

江戸開府の時、天海僧正が徳川家康へ進言し、不忍池は琵琶湖に似せて作られた。辯才天もこの時勧請され、もとは竹生島の辯才天が本地。
上野の山そのものが比叡山の見立てであり、歌舞伎の〈入谷〉で按摩の丈賀が言うように、鶯谷側の山下を「坂本」と称したのは、叡山東麓の地名を取ったのである。

もともと川の女神ゆえ、辯才天は必ず水に縁のある場所に祀られる。
川も池も井戸も、最近は汚染の進んだところが多く、名のある辯才天もいたわしい現況になってしまっているところも多い。
バブルの頃、不忍池の地下に大駐車場を作ろうなどという暴論が出たが、もしそうなっていたら、ここもどうなっていたか知れない。
池の水は清くはないが、夏には蓮が茂り、さわやかなその花の香りが風に漂う。

私はこの池のスワンボートが大好きである。もっとも、あいにく3月まで休業の由。
別段、一人で漕ぎ廻しても恥ずかしいとも思わず楽しいのだが、ご縁があれば、どなたでもご一緒したいものである。

2012年1月 9日 | 記事URL

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