2012/3/26 蛇の目廻し | 好雪録

2012/3/26 蛇の目廻し

新築中の歌舞伎座の舞台に大規模なセリが仕込まれた由。
これを見ると、初台の新国立劇場オペラパレスに匹敵する大機構のようである。

廻り舞台の一種に「蛇の目廻し」というものがある。
常の廻り舞台とは違い輪を二重・三重に分け、それぞれ別方向に廻るよう仕組んだもの。
戦前の歌舞伎座は二重の蛇の目廻しで、歌右衛門がよく「蛇の目は、アナタ、好いのよォ」と言っていた。
歌右衛門が言っていたのは〈忠臣蔵〉大序で、当時は末尾の師直の「早ェわ!」までせず「還御だ!」で二重の上に師直、下に若狭と判官がキマッたところで双方が別々の方向に廻って行くところとか、先代の得意とした〈牧の方〉の大詰・北條別邸奥庭の場で牧の方と、彼女が付け狙う幼い実朝と、それぞれがすれ違うところとか、まるで今この目に見るような例を挙げて話してくれたものだった。

報道を見る限り、新らしい歌舞伎座のセリはどうも蛇の目に仕組んではないようだ。
今や大抵のことは難なくできる時代、知らずにこうしたのだったら実にもったいないと思う。

「蛇の目は、アナタ、好いのよォ」と、関係者の夢枕に亡き歌右衛門は立たなかったものと見える。

2012年3月26日 | 記事URL

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