2012/4/15 「こけら葺き」の寿命 | 好雪録

2012/4/15 「こけら葺き」の寿命

京都・冷泉家住宅の「こけら葺き」屋根が急速に劣化、との報道
原因は大気汚染ではないだろうか。

日本建築の屋根材として、そもそも系統の異なる瓦葺きは別にすると、格式で最高は檜皮葺き。宮廷公家・寺社などに限り、一般民家には用いない。
これに次ぐのが木片を美しく並べて葺く「こけら葺き」であり、過去にはきわめて多く用いられ、今でも本格的な茶室の屋根に見ることがあるが、手間賃の廉かった昔と違い現代では費用が嵩み耐久性も低いので、戦後は銅板葺き、最近はチタン板葺きなどに取って代られた(明治宮殿に用いた銅板は瓦・檜皮以上の別格に贅沢な屋根材だったが、戦後は銅板葺きと「こけら葺き」の市場価格が逆転したのである)。
板葺きとなれば一時しのぎの小屋懸けといったところで、茶庭の腰掛けなどは杉皮葺きにしてさらに格を落とす。
屋根の位取りとは、本来これほど厳然と定まっているものである。

大気汚染によって雨水に煤塵が多く含まれる。当然それは屋根の表面に付着。この汚れが水分を吸収し常時湿気が去らず、結果、苔や黴が早期に生じ易くなって屋根材の木片の耐久性が落ちるのである。雨水が清ければこの事態に至るのも遅れる道理。現代では当初の予想の半分しか持たなかったのは当然であり、私の観察でも同様に早々と劣化した「こけら葺き」の事例を多く見ている。

茅葺き・藁葺きは共同の百姓仕事でもなされたものだが、檜皮葺き・「こけら葺き」は純然たる専門職の仕事で、仕事が減れば職人も減り腕も落ちる。
冷泉家の葺き替えには7,000万円も掛かるそうだ。耐久性が半分から三分の一に減じ12年に一度となれば毎月50万円そのためだけに積み立てて置かねばならず、とてもじゃないが個人負担は無理。けれども費用を懼れて敬遠すると、こうした葺き替えに要する諸技能は一度絶えてしまえばオシマイである。

当家の場合は文化財指定だから文化庁の補助金が下りるが、そうではなく民間で歴史的に意義ある建物を維持している隠れた例は膨大である。
全国の関係者にとって、実に頭の痛い問題であろう。

2012年4月15日 | 記事URL

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