2012/6/11 二代目猿翁の「口上」 | 好雪録

2012/6/11 二代目猿翁の「口上」

新橋演舞場の昼の部を見てきた。

口切の坂田藤十郎が懐から書き付けを出して読み上げる(セリフが憶えられないものと見える)口上幕では、大上手に秀太郎、大下手に右近が並び、明らかに他の役者の襲名とは違う身内感、さらに言えば無人(ぶにん)感が漂っている。

ひとわたり済むと、藤十郎の呼び立てで背後の襖が開かれ、猿之助改め二代目猿翁が押し出される。

猿翁も口上を述べるのだが、病身の哀しさ、言っていることは九分どおり聴き取れず、口から垂れる涎が黒の紋服に白い筋を作るのを誰もどうもしようがない。
私は、雀右衛門最後の歌舞伎座出演を思い出した。
京屋は1日限りだったが、猿翁はこれを連日の見せ物とし、来月は〈山門〉の久吉にも出ようと言うのである。
昔、梅沢富美男の明治座芝居のショータイムで、病身の実母を車椅子に乗せたまま花道のスッポンからせり上げ、観客の涙を誘ったという。猿翁の「口上」はこれに限りなく近い。

聴取不能の猿翁の口上。これは舞台と客席との究極の馴れ合い、ではないだろうか。
これが成り立つのであれば、ただ客席の「好意」さえあれば舞台上では何をしても許されることにはなるまいか。

三代目猿之助の夢とは、そんな低次元のところにあったのだろうか?

2012年6月11日 | 記事URL

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