2012/6/14 演出の妙~新国立劇場〈サロメ〉 | 好雪録

2012/6/14 演出の妙~新国立劇場〈サロメ〉

宮本亜門の作風から考えてちょっと危惧していなかったわけでもない〈サロメ〉(←注意:音が出ます)が、演出として素敵な出来ばえだ。
平野啓一郎の新訳はちょっと上滑りする部分もないではないものの、予想よりよほど役者の生理に寄り添った自然なセリフに仕上がっている。

その平野新訳を収めた光文社古典新訳文庫『サロメ』(田中裕介の解説と注釈は出色)に付載された宮本達意の一文「『サロメ』に寄せて」を見ると(P,217)、今回の演出イメージの源に三島由紀夫の映画〈憂國〉があることが分かる。宮本は触れていないが、この映画の演出は堂本正樹。彼が熟知する能の様式性を最大限に活かしたものだ。

今回の舞台面に能を思わせる部分は直接的にはないけれども、古典藝術のちからが根源的に影響を及ぼしているとは言えると思う。
宮本はただ古典に追随するのではなく、自身の感性でそれを再創造し、実にスタイリッシュに整った美しい舞台づくりに成功している。同劇場のオペラ〈ローエングリン〉演出の珍妙な混濁とは大変な相違。

17日(日)で上演終了。
役者の出来にはデコボコもあるが、山口馬木也の若いシリア人(この隊長役の善し悪しがこの芝居の成否に深く関わると思う)に鬱情が濃く、奥田瑛二のヘロデ王とア麻実れいの王妃ヘロディアスがさすがに舞台を引き締める。
オススメの舞台である。

2012年6月14日 | 記事URL

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