2013/9/15 国立能楽堂創立30周年記念能初日 | 好雪録

2013/9/15 国立能楽堂創立30周年記念能初日

台風が接近中とのことで折々篠突くような豪雨。
それでも、正午ごろから晴れ間も見えて何とか持った空模様である。

今日から国立能楽堂創立30周年記念能が延べ4日間にわたり開催される。
全日を見た上で、来週には日本経済新聞夕刊に摘評を掲載予定である。

国立能楽堂の本公演開場初日は1983年9月16日。私は大学1年生。
その年の4月から能を本格的に見始めたので、当然この興行も前売を買うつもりだったが、発売初日20分間で完売。
そこでこの日、当日券を買うため窓口に並んだものだ。
たまたま肌寒いほどの秋雨の朝。7時過ぎに千駄ヶ谷の新能楽堂に赴くと先客が2人いた。1番手は立教、2番手はお茶ノ水、それぞれ能楽サークルの学生だった。
首尾よく脇正面席を手に入れ、入場したとたん、鼻を撲つ檜の芳香に驚いた。この香りはその後、かなり長いこと消え失せず漂っていた。

初日劈頭、東宮同妃の台覧を得て喜多實が白無垢の装束で翁大夫を勤めた〈翁 白式/松竹風流〉は満場水を打ったような静粛。後にも先にもあれほど厳粛で慎んだ〈翁〉を見たことがない。そしてこれは、喜多實が国立能楽堂主催公演に出勤した唯一の機会だった。
続いて侍従長・入江相政の撰文による「開口」でワキは寶生彌一。脇能は喜多長世のシテによる〈繪馬 女体〉で粟谷新太郎の鈿女、友枝昭世の力神。脇狂言は先代三宅藤九郎〈末廣がり〉。近藤乾三・大倉長十郎の一調〈勧進帳〉を挟み、大坪十喜雄〈亂 膝行〉。
みなよく憶えている。
これに先立つ9月15日の披露式典では当時の三宗家、喜多實・観世元正・寶生英雄による〈弓矢立合〉が舞われ、夜のNHKニュースで報道された。

それから30年、というわけである。

国立能楽堂は5年あるいは10年の節目ごとに記念能を催しているから、毎回の内容を思い起こすと自然、斯界の消長がハッキリする。
今日の舞台を見ていると、5年前と大体同じような役者が芯になっているにもかかわらず、多くの場面で「衰え」や「弛緩」が顕著。全体には正直、落胆させられることが数あった。
この感想が明日以降、どう変わるものか、どうか。

明朝はいよいよ台風の影響で嵐となるようで、公演中止の可能性も取り沙汰されている。
天然自然のこと、こればかりはどうにもならない。

なお、国立能楽堂の資料展示室では今日から「開場三十周年記念特別展示・能を彩る文化財~名品能面能装束展」が開催されている。小規模スペースながらいつものように逸品揃いで能を見なくても入場自由、観覧無料。9月15日(日)~11月20日(水) 午前10時~午後5時で月曜日閉室。ご興味の方には是非オススメである。
いま出ている名品としては、観世十郎元雅ゆかり天河大辨財天社秘蔵「阿古父尉」、金春宗家旧蔵の熊大夫作「若曲見」、銕仙会現蔵の赤鶴作「黒髭」など。
公演中の休憩時間を外せばいつも人少なだし、至近距離でゆっくり見られる。今後も展示替えで続々と逸品の蔵出しが続くはずである。

2013年9月15日 | 記事URL

このページの先頭へ

©Murakami Tatau All Rights Reserved.