好雪録

2012年12月アーカイブ

2012/12/31 能・狂言~平成24年の名舞台~

こと歌舞伎に限らず本年の日本演劇界最大かつ最悪の話題が勘三郎逝去の悲報だったことは誰もが認めるだろう。

先刻のNHK紅白歌合戦で和田アキ子の歌は彼(および森光子)に捧げるものだった。
が、私にはむしろ、和田に先立って文字どおりの絶唱を披露し、恐らく全国のお茶の間に計り知られぬ衝撃をさえ与えたであろう、声すがれ気迫あくまで激しい77歳の美輪明宏の歌う〈ヨイトマケの唄〉が、勘三郎の早世をも含めて、時として不当とも思われる宿命、この世に存在せざるを得ぬあらゆる矛盾・不公平、そうしたもろもろに対する果てしない慟哭のように思われてならなかった。

さて。
私が見た今年の能・狂言で特筆すべき名舞台を数え挙げてみたい。(数字は上演日時順)

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2012年12月31日 | 記事URL

2012/12/26 勘三郎本葬逮夜

明日12月27日、たまたま私の40代最後の誕生日、築地本願寺で十八代目中村勘三郎の本葬が執り行われる。

私は本日午後から大阪に下り、明日まで続けて今期最後の〈ミス・サイゴン〉を見る。
すでに8月の前売開始前から押さえて貰ってある席。一度確保を願ったら決してキャンセルしないのがこの道の仁義である。
明日は勘三郎を心で見送ることにする。

たまたま不思議の縁を得、この「好雪録」12月5月の条、意を尽くした追悼文とも言われぬ怱卒の拙稿を、小日向遺邸の霊前にお供え頂いたという。
まことに、ありがたいことである。
が、やはり、口惜しいことである。

「勘三郎が、死んだ」と心に思うたび、今もって恐ろしい喪失感に苛まれる。
このことは恐らく、今後も長きにわたって変わるまい。

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2012年12月26日 | 記事URL

2012/12/22 森下洋子と歌右衛門

年末恒例のバレエ〈くるみ割り人形〉。
初演120周年というのに他に調整が付かず、今年は本日の松山バレエ団による公演しか見ることができなかった。
むろんお目当ては、64歳でクララを踊る森下洋子である。

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2012年12月22日 | 記事URL

2012/12/21 KAAT舞台芸術講座「ふたつの隅田川」打ち合わせ

活動予定欄に記載のとおり、明けて1月13日(日)午後2時からKAAT神奈川芸術劇場での舞台芸術講座でお話しすることになっている。今回は来年3月同劇場の企画公演「隅田川二題」(清元〈隅田川〉による舞踊+ブリテンのオペラ〈カーリュー・リヴァー〉)に伴う、連続講座第1回「ベンジャミン・ブリテンと能〈隅田川〉」と題するもの。

本日、講座でご一緒するブリテン研究が専門の音楽学者・向井大策さんに、このオペラを指揮する若手指揮者・角田鋼亮さんを交えて、簡単な打ち合わせを行なった。私は45分の持ち時間に能の話をすればよいので打ち合わせの必要もないほどなのだけれど、こうして事前に他ジャンルの方とお目に掛かり、作品や企画に関わる色々なお話を伺っておくのは極めて有意義であり、初対面のご両人とも実に熱心な、才気のある方々で、まことに頭が下がった次第である。

ブリテンのオペラといえば〈ピーター・グライムス〉、だろう。
私は1979年の9月、英国ロイヤル・オペラの初来日公演において、コリン・デイヴィス指揮、タイトル・ロールはジョン・ヴィカーズで「極付」と呼ばれた舞台を見ている。その後経て、数年前にヴィーンで聴き、去る10月は新国立劇場オーブニング公演でも接しているのだが、よほど相性が悪いかして、これまで一度も心の底から楽しんだことがない。
〈カーリュー・リヴァー〉を実際に見聞した経験はこれまでないから、今回は勉強のつもりで稽古の段階から見学させて頂き、向井さんや角田さんの薫陶よろしきを得て、来年は生誕100年(彼は実に「大正生まれ」なのだ)を迎えるベンジャミン・ブリテンの蘊奥に、少しでも近づきたいと願っている。

2012年12月21日 | 記事URL

2012/12/20 本年講了

今日は午後に大学で教授会、夜は朝日カルチャーセンター新宿校の定例講座。これで今年の学務と講義はいちおう終了である。内祝に祝盃を、というところだが、先週ちょっと体調を崩して病臥以来、極端に酒量が落ちたような気がして些か自粛。

ということで、何となく締まらない仕事納めになりました。

2012年12月20日 | 記事URL

2012/12/19 歌舞伎座新開場杮葺落興行内容発表

本日、歌舞伎座新開場杮葺落興行の上演演目と配役が発表された。既報のとおり来年4~6月、各月ともに三部制である。

建て替え中に富十郎、芝翫、雀右衛門が鬼籍に入り、勘三郎までもがそのあとを追った。4月の〈お祭り〉は本当だったら勘三郎のために用意された演目かもしれず、やむなく偲ぶ手向けの一幕となったことには深く哀しい感慨を禁じ得ない。新築落成の初月に〈将門〉の屋台崩しとはゲンが悪くはないか?など色々ツッコミどころはあるものの、まずは、八方に気を配ったラインナップだろう。半面、既視感が強いのも否定できない。

東京駅の新装復興以来、観光客が引きも切らない。駅を見るのは無料だからである。
新しい歌舞伎座に話題が集まっても切符は高価だ。全興行を良席ですべて見れば相当の散財である。無理をして集客しても、それがただイベント見物の一過性の観客である限り、歌舞伎芝居のため長期的にはさほど寄与しない。
今後10年、20年後の観客をどのように育ててゆくか、松竹の見識が問われようし、それは結句、演目と配役によっても具現化されるもので、ただ宛がわれたように役者の技藝だけを眺めていれば観客の質が向上するものではないのである。
歌舞伎役者の実数そのものが極度に減少したいま、興行数を絞り、質を上げなければいけない転換期に差し掛かっているものの、肝腎の「古典」に対する歌舞伎関係者の自信喪失が拭えないのではなかろうか?

先にも書いたとおり、死んだ勘三郎の最も重要な業績は、野田秀樹や串田和美との連携ではなく、古典への真摯な対峙だった。この世代ほとんど唯一の座頭役者だった彼の亡き今、ある意味では歌舞伎存亡の危機が迫っていると言ってもよい。

新しい歌舞伎座には、何よりも、伝承演目の素性正しい上演に努めて貰いたいと切に思う。

2012年12月19日 | 記事URL

2012/12/18 新国立劇場バレエ〈シンデレラ〉 "Ugly Sisters"の山本隆之×高橋一輝

新国立劇場の歳末は毎年交互にバレエ演目を入れ替えるのが恒例。今年は〈くるみ割り人形〉初演120周年だったが、それには頓着せず、プロコフィエフ作曲〈シンデレラ〉上演の順番である。

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2012年12月18日 | 記事URL

2012/12/17 Bunkamuraシアターコクーン 〈祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~〉KERAバージョン

今宵Bunkamuraシアターコクーンで見たのは、長編〈祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~〉である。

※以下の記述は「批評」欄に転載しました(2013年1月1日追記)。

2012年12月17日 | 記事URL

2012/12/16 山本東次郎さんの人間国宝認定を祝う会

いささか旧聞に属するが、去る12月9日(日)帝国ホテル・孔雀西の間において、表題の祝賀会が挙行され、300人を遥かに超える盛況だった。
今回は山崎有一郎氏を代表発起人として当代東次郎氏の友人・知人関係が集まり、いわゆる玄人仲間ではない内輪の祝儀。交友の広い氏らしいほのぼのとめでたい、まことに良い会だった。

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2012年12月16日 | 記事URL

2012/12/9 山本東次郎さん「人間国宝」認定と狂言の明日

以下、この日の「山本東次郎さんの人間国宝認定を祝う会」で配付されたパンフレット掲載の拙稿を転載する。(2012年12月16日追記)

山本東次郎さん「人間国宝」認定と狂言の明日      村上 湛

同じ志を寄せる周囲の人々にとって、「待ちに待った」とはこのことだろう。
山本東次郎さんが重要無形文化財保持者(芸能の部・狂言)の各個指定、いわゆる「人間国宝」の認定をこのたび受けられることになった。七月二十日付の新聞各紙に既報。十月四日付『官報』には文部科学省告示第百六十一号として掲載。十一月三十日には無事、認定書交付式も済んだ由である。
山田流箏曲の山勢松韻さんと話していて、「東次郎先生、もうとっくになっておいでだとばかり思っていたんですよ」と、ご自身も「国宝」の山勢さんが半ば慨嘆されていたのが印象的だった。東次郎さんの舞台を知る一般の感想もまた、そうであるに違いない。

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2012年12月 9日 | 記事URL

2012/12/5 嗚呼、十八代目中村勘三郎......

何を口にしても、味がしない。
勘三郎が死んでしまった。

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2012年12月 5日 | 記事URL

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