2014/1/14 和塾・講座「世阿弥」 | 好雪録

2014/1/14 和塾・講座「世阿弥」

大学で『源氏物語』賢木の巻を講じた後、夜は麻布鳥居坂の国際文化会館に赴き世阿弥講座。ここは明治天皇天覧歌舞伎の旧跡・井上馨邸が岩崎小彌太邸となり、戦時焼失後国有地となって払い下げられ今に到る由緒ある場所。宿泊や利用は会員制を基本とした静かな環境とて、折々訪れるたび心休まるありがたい会場である。

お招き頂いた主催元の「和塾」さんは公式HPに「ちょっと贅沢な和文化体験を提供する」と自己紹介しているとおり、今宵のような座学だけではなく体験型の諸企画をプロデュースするNPO法人。私は今回が初めてのお付き合いで、セルリアンタワー能楽堂を介しての出講だった。受講者は毎回20人以内に限定するらしく、親密な雰囲気でじっくり講話を聴こうとのコンセプトのもと、みなさんきわめて熱心なご様子だった。

能は評論を専門とする私であるから、研究面ばかりで世阿弥を語ると言葉が「借りもの」になってしまうし、どんな講座も内容は事前に固め過ぎず臨むことにしているため、『風姿花伝』の紹介を軸として、あとはその場と流れを鑑み自由に話すことにした。「『源氏物語』、能、茶の湯を日本文化の3つの核と見ることもできる」とか、『伊勢物語』の厳密な解釈とか、2時間の間に話はあちこちしたけれど、『風姿花伝』を著した壮年の世阿弥が「花」についてまだ確固たる結論を得ていない事情については語りおおせたかと思う。これは連講を担当している池袋コミュニティカレッジ講座「『風姿花伝』精読~世阿弥の実践美学研究」のお蔭でもあって、「人前で物ごとを講ずる」というのは畢竟、お金を頂戴してこちらが勉強させて頂いているようなもの。本当にありがたい限りである。

今回受講された「和塾」の塾生さんは、見たところ平均して40~50代の方が中心だった。一般の教養講座は60~70代が中心だから、これはきわめて珍しい。今後いろいろと伝統文化を支えて下さる力ともなる世代でもあるだけに、是非、良い能・狂言の舞台に接し、できれば謡や仕舞や囃子の稽古も始めて頂くようオススメした。

「和塾」の会員公募は一般に広く開かれていると同時に、内部の紹介による参加者の拡大も組織の密度を高めるには効果的だから、今年の1~3月はそちらに重点を置き内報してゆかれるそうである。

世上、「紹介制や会員制は閉鎖的だ」と言われることが多いけれども、何でも外に開かれればそれで良いというわけではない。国際文化会館も会員となるには既所属2名の推薦が必要で、その規約あればこそ保てる環境やサーヴィスの質というものもある。能でそうしたことはあまり聞かないが、師家に出入りし高価な器物を用いる茶の湯だと筋の通った稽古場はやはりフリでは入れてもらえない。もちろん、何か不始末のあった時には当事者だけでなく紹介者も責任を負うのである。

世上の皆が皆「わたしは消費者」という幻想に捉われ、何かというと「損をした」「傷ついた」と勝手自儘なクレームを出して当然、という現代だからこそ、参加者・加入者が「わたしは護持者」という立場に身を置くことになる紹介制・会員制の存在は、文化活動・消費活動の全般において今後むしろ重要度を増すのではないかと私は思う。

2014年1月14日 | 記事URL

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