2014/1/2 歌舞伎座の初芝居 | 好雪録

2014/1/2 歌舞伎座の初芝居

もう30年以上も1月2日の初日には歌舞伎座を見るのが通例。
やはり、初芝居が「控櫓」の新橋演舞場では締まらなかった。
やはり、歌舞伎座に限ると、新装開場後の今日しみじみと思った次第。

そういえば、30年前の今日は、17代勘三郎の熊谷、歌右衛門の相模、梅幸の義経、13代仁左衛門の弥陀六、芝翫の藤の方で〈嫩軍記三段目〉を見たのだった。
諸役みな「最高」と唸る中で、勘三郎の直実のみセリフが全然入っていず黒衣ベタ付けだったのに憤った記憶が鮮明である。
もっとも、後日それが改善されてから見直した舞台を思うにつけ、以後あれほど竹本を活かした熊谷役者はいなかった。「17代勘三郎の『当たり役』が〈陣屋〉の熊谷だ」とは到底言われないにしても、そこから得たものは極めて大きかったのだ。

それにしても、この時の歌右衛門の相模のすばらしさ。
冒頭、「相模は障子押開き」と、正面の銀襖を出るアユミの充実。
「日も早西に傾きしに夫の帰りの遅さよ」と向こうを見やって思い入れ、膝を突き二重上に居定まるまで僅か1分かそこらの芝居に「人生」のすべてが見えてしまう驚異。
それこそ、幕見で何度見ても変わらず強烈に訴えかける「驚異」だったのだった......。

本日夜の部の〈忠臣藏九段目〉、新作〈東慶寺花だより〉、それぞれに細かな問題はあるものの、楽しめた。中幕〈乗合船〉こそちょっと低調だがこの出し物は往々にして雑然とした配役になりやすい。〈九段目〉と〈東慶寺〉だけでも見て考える価値は充分にある今月の歌舞伎座夜の部である。

批評は別途、本式に掲載するにして、梅玉の力弥、魁春のお石の立派さ。
30年前の11月歌舞伎座は歌右衛門が同座で最後に戸無瀬を勤めた興行だった。その折と同じ梅玉の力弥は30年前より幾層倍もすばらしい上質な色気と実質を兼ね具えて美事。
魁春のお石は大きさこそ梅幸に劣り、手強さこそ芝翫に劣るが、「心深さ」の点でこの両先達に勝るものをすでに身につけた名品である。全体に芝居がない時でも気を抜かぬ姿の立派さ。由良助が虚無僧姿に身を変え最後を惜しむ件の哀れの深さ。小浪を突き遣り上手に入る時もキツくならず、愁いの心入れも充分に利いた。

ほか、ツィッターには簡便に書き記したとおり、見て損のない興行なのでオススメである。

明日は早発ちで大阪に参りますので、更新は1日お休みいたします。
よろしくお願い致します。

2014年1月 2日 | 記事URL

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