2016/1/1 本年の主な活動予定 | 好雪録

2016/1/1 本年の主な活動予定

新年おめでとう存じます。

「無知は最大の罪」と申しますが、重要文化財指定の東京・日本橋高島屋よりも建築上の藝術価値ある大阪・心斎橋大丸の取り壊しがあっけなく決まってしまう日本。文化政策がどれほど当を得たものとなり得るものか、「すべては金」というあさましい開き直りが横行、その浅薄に気付かないのでは?と思われる世相に、私は大いに危機感を抱きます。
古典藝能を取り巻き、支える、諸状況に、われわれはもっと敏感に反応しなくてはならなくなるでしょう。いつの世も藝能者は最も政治と世相に寄り添いがちであり、言い換えれば、足をすくわれ易いものです。「一億総活躍」などという空念仏には踊らされないようありたいものであります。

★例年のように、新演出・新制作に関わることが幾つか予定されています。

【1】復曲能〈菊慈童 テッ縣山〉 再演
昨年お知らせしておりますが、2004年に小田幸子さんと作成した観世流〈菊慈童〉前場+後場クセ入り完全版の国立能楽堂主催公演による再演です。これまでに梅若玄祥(初演)、観世清和、観世喜正の諸氏によって演じられており、今回のシテは梅若紀彰氏。上演能本は既成のものを用いますが、拙作の間狂言には新たに手を入れる予定です。

 2016年2月3日(水)午後1時 国立能楽堂「復曲再演の会」
 ★復曲能〈菊慈童 テッ縣山〉 シテ:梅若紀彰 (「テッ」=「麗」+「おおざと」)
  ※ほかに復曲狂言〈若菜〉を併演。

【2】山田流箏曲/日本舞踊〈鉢の木〉 再演
2014年10月31日に「古典の日記念・雪景色」と銘打つ国立能楽堂企画公演で初演された新作舞踊〈鉢の木〉が再演されます。私の発案を発端として同名の山田流箏曲を舞踊化、男性舞踊家による能舞台での2人立ち素踊りとして制作しました。今回は国立劇場の主催により初演通りの配役を得て、花道付きの額縁舞台で新たに演出が再考されるはずです。

 2016年3月20日(日)国立劇場小劇場「素踊りの会」(詳細未定)
 ★山田流箏曲/日本舞踊〈鉢の木〉
 旅僧実は最明寺入道時頼:西川箕乃助/佐野源左衛門尉常世:花柳寿楽/山勢松韻ほか箏曲連中

【3】復曲能〈墨染桜〉 再演
2009年3月に喜多流・塩津哲生氏によって完曲が復興された佳曲〈墨染桜〉は、昨年2月、大槻文蔵氏によって観世流として新たに上演されました。その時の地頭・片山九郎右衛門氏の要望により、重ねての上演が内定(詳細後報。5月29日・京都観世会館の予定)
片山幽雪氏がお元気でしたら昨年の上演は必ずや見て下さったはずで、ご覧になったら必ずやご自身で舞いたくお思いだったでしょう......九郎右衛門氏がシテを手向け、もうじき一周忌を迎える幽雪氏追善の一端となれば、私にとってこんなに嬉しいことはありません。

【4】復曲能〈樒天狗〉 再演
「救いなき業苦」を描く異色の天狗物〈樒天狗〉を1994年7月「能劇の座」初演版とは別に、私の能本改訂・新演出により2013年1月に上演した(大槻能楽堂自主公演)、その再演です。初演時に大天狗を演じた大槻文蔵氏が郁芳門院=六条御息所、〈千手 重衣之舞〉初演時に異流共演で好評を得た喜多流・塩津哲生氏が大天狗に扮し、ツレ・小天狗も喜多流からの参加です。
今回の趣向として、大天狗の正体が「柿本紀僧正真済」であることから、真済への言及がドラマの深層を支える狂言の秘曲〈枕物狂〉を併演。亡き茂山千作が当たり役にしていた枕祖父を山本東次郎が演じます。山本家での〈枕〉は今回が関西初演で東次郎氏としてもほぼ30年ぶり3度目の希少な機会。今年88歳にして益々ご壮健な馬場あき子女史による名解説も付く豪華な番組です。
この公演が成功すれば、これに準じた番組で東京上演も......と予想しております。

 2016年7月23日(土)午後2時 大槻能楽堂自主公演「能の魅力を探るシリーズ」
 ★復曲能〈樒天狗〉 六条御息所:大槻文蔵/大天狗:塩津哲生/小天狗:狩野了一・友枝雄人
  ※ほかに「おはなし」馬場あき子、狂言〈枕物狂〉山本東次郎を併演。

【5】新演出 能〈千手 重衣之舞〉 再演
大槻文蔵氏の依頼により新演出を制作し、2011年9月・大槻能楽堂自主公演で初演された拙作の小書〈千手 重衣之舞〉は一昨年に観世清和氏によって東京で2度も演じられました。その再演が大阪で。こうして何度も舞台に掛けられ、親しんで頂けるのが、制作者としては何よりの幸せであります。

 2016年10月22日(土)午後2時 大槻能楽堂自主公演「能の魅力を探るシリーズ」
 ★新演出 能〈千手 重衣之舞〉 千手の前:大槻文蔵/平重衡:井上裕久
  ※ほかに「おはなし」山折哲雄、狂言〈川上〉野村萬を併演。

【6】復曲能〈星〉 初演
年をまたぎ来年の2月ですが、観世小次郎信光ゆかりと従来思われてきた番外能〈星〉を、天野文雄氏の能本校訂、わたくしの演出で新年度の終わり近くに上演します。漢楚軍談の最古の劇化例。人の命運を天の星々が左右する、壮大な物語です。なんともワクワクする配役が揃いました。

 2017年2月4日(土)午後2時 観世小次郎信光没後五百年記念・大槻能楽堂特別公演
 ★復曲能〈星〉
  本命星の精:大槻裕一/破軍星の精:大槻文蔵/漢の高祖=劉邦:福王茂十郎/楚の項羽:森常好
  ※ほかに能〈胡蝶〉観世喜正、「対談」天野文雄×村上湛、を併演。

〈星〉の物語は以下のとおりです......【前場】劉邦=高祖の腹心・韓信と紀信が敗戦続きの漢軍勝利を願うため盟主・高祖の本命星(その人の一生を支配する守護星)祭祀を進言に出向くと本命星の精が出現。彼らの発案を祝福し、漢軍守護を誓う。【後場】漢楚の攻防は熾烈を極め、猛将・項羽の率いる楚軍の前に漢軍は苦戦。高祖が威儀を正して星を祈ると出陣必勝の守護星・破軍星の精=軍神が出現。さしもの楚軍も敗れ去って項羽は壮烈な最期を遂げ、漢・高祖の御代が開かれる......謡曲本文を簡単に閲覧できる現在発刊中の書籍はないのですが、古書を漁るならば『謡曲全集』下巻(明治44年初版)、および『校註謡曲叢書』第3巻(大正4年刊)に〈星〉詞章が翻刻されています(昭和43年刊『未刊謡曲集』23所収〈星〉は改作版の略本なので今回の上演詞章とは大きく異なります)
狭い能舞台を縦横に用いる斬組あり、中国史上に名高い一大歴史絵巻「漢楚の攻防」を面白く、格調高くお目に掛けたいと思っております。
能〈星〉は、私の独力による演出としては8曲目になる勘定。思いがけず随分な数の能の演出・再構成に関わってきたものと感慨を抱きます。本務たる批評と同様に、こうした創造活動でも良質の成果を残せるよう、これからも努めたいと思っております。

批評活動の他、講演や講座については逐次お知らせ致します。

本年も微力ながら、能・狂言の、舞台藝術の、向上と普及に尽くしたく思います。
何卒よろしくお願い申し上げます。

2016年1月 1日 | 記事URL

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